東北メディカル・メガバンク機構

道なき未知

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第6回 知りたいけれど、知りたくない。遺伝子が教えるあなたの未来

「もう手の施しようがありません。余命半年です。」
ドラマで時々観る病気の告知シーン。当然、告知された本人は衝撃を受け、家族は嘆き悲しみます。
では、こう言われたらどうでしょうか?
「あなたはいま健康です。でも遺伝子を調べたところ将来○○という重い病気になる確率が20%あります。」
あなたは今、健康そのもの。食生活や生活を変えよう、すんなりそういう気持ちになりますか? いつ罹るかもしれない病気のために手術をしたり薬を飲んだりするでしょうか?
何よりもあなたは「遺伝的に重い病気になる可能性がある」ということを受け入れることができるのでしょうか?

「遺伝情報を本人に伝えること」は病気の診断とは大きく異なる点が3つあります。
・不変性:遺伝情報は生涯変化しない
・予測性:病気を発症する前に、リスクのある事がわかってしまう
・共有性:親、子、きょうだいなどが同じ遺伝情報を持っていることがある

遺伝情報不変性予測性共有性

遺伝情報を調べた結果、深刻な事は何も見付からないかもしれません。一方、そうでない場合もあり得ます。
自分の遺伝情報を知るということは、「生涯その情報と向き合う」「将来病気になる可能性を受け止める」「家族の健康について情報を知る」覚悟が必要なのです。

2016年10月ToMMo は、いわて東北メディカル・メガバンク機構と共に、遺伝情報の解析結果をお知らせする試み(調査)を開始しました。(遺伝情報の回付に関するパイロット研究
本人の遺伝情報を、大規模な研究の枠組みで個々の参加者の方々にお伝えするのは、日本では初めての試みです。
すべての人が自分の遺伝情報を知りたいとは限りません。また、予備知識のないまま知ることを選択して、聞いた後に「やっぱり知りたくなかった」と思っても、もう元には戻れません。参加者の「知らないでいる権利」を守るため、そして参加者がよりよい判断をするため、私たちは次のような方法を取りました。

対象とする疾患については、高脂血症(脂質異常症)のなかの「家族性高コレステロール血症」という遺伝要因が強く関わる疾患を選びました。治療方法が確立されていること、治療の体制が整っていることも、この疾患を選択した理由です。
まず検査の値(今回はコレステロール値)が高い方に対し、調査に興味があるかどうかを伺います。このお伺いをする対象者を抽出する際に疾患の遺伝子の検討はしていませんので「知らないでいる権利」が保たれます。興味がある方には講習会に参加していただき、前述した「不変性」「予測性」「共有性」はじめ遺伝に関わる様々な情報について参加者がよく理解できるよう努めます。そのうえで、遺伝情報を知りたいかどうか、参加者本人が決めます。
調査に参加いただいた方に対して、お預かりしていた遺伝情報の検討を行い高脂血症の原因が遺伝要因による可能性が高いものか、即ち「家族性高コレステロール血症」という疾患の可能性が高いか、そうでないかを後日お伝えします。そのお伝えした時に起こる心理面、精神面の変化等について調査します。

遺伝情報回付パイロット調査

「いつまでも健康でいたい、病気にはなりたくない」それは多くの人が抱いている願いです。
疾患の因子を持つことを未発症の方に伝えて予防してもらう、つまりその病気にならないようにする、それこそが医療の役割なのではないか、そういう考えもあると思います。
遺伝要因の有無にかかわらず、さらに疾患の兆候が既にある方に対して情報を伝える、そしてその様子を研究対象として調査する、というこの方法に対して反発や遠回りな印象を持つ方もいるでしょう。
ただ、自分の遺伝情報を知った時、人はどう感じるのか、どのような行動をとるのか、はほとんど調べられてはいないのです。このため、私たちはゲノム医療の先駆者として様々なケースを経験しながら、慎重に進めていくことを選択しました。

科学が発達し、今までわからなかったことが明らかになる。そのことが常に良い結果をもたらすとは限りません。
ゲノム科学の進歩によって、治療が可能となったり予防できたりする病気はたくさんあると考えられています。自分の遺伝子を知り、その遺伝子によって、治療方法を選択したり、病気を予防したりする世の中は、すぐそばまで迫っています。
遺伝情報の「伝え方」を誰かが考え、ガイドを決定し、そして実行しなければなりません。
ゲノム科学が間違った道に迷いこまないよう、慎重に手探りをしながら前に進んでいく。それが私たちToMMoの役割なのです。

(担当:是枝幸枝)

関連リンク

コホート調査における遺伝情報回付

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