多様な連携の促進

東北メディカル・メガバンク計画では、個人の特徴に合わせた予防や治療を選択する次世代医療実現のためには、地域住民や自治体の理解を得るとともに、他の研究機関や医療機関等と連携することが重要と考えています。また、東日本大震災からの復興としての当計画が次世代医療実現と我が国の政策的課題に貢献するために、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)等による事業のサポートをうけながら、国内外のアカデミアや産業界との連携にも取り組んでいます。

アカデミアとの連携

当計画によって取得する試料・情報と、その利活用によって得られる成果は、我が国の次世代医療を目指す研究を推進する上で基盤的な役割を果たすことが期待されています。そのため、得られた成果は、アカデミア間で適切に参照・共有等ができる仕組みを整えつつ、大規模共同研究を実施しています。

国内バイオバンクとの連携

我が国の大型バイオバンクの草分けである、東京大学医科学研究所によるバイオバンク・ジャパン(BBJ)とは、早くから協力関係を築いてきました。当計画から一般住民コントロールのサンプルを提供し、疾患関連SNPをゲノムワイド関連解析(GWAS解析)等で見出す多数の共同研究に貢献しています。
また、我が国には主要な疾患を網羅し、国民の健康を守るために疾患の解明と治療法の開発を目指す6つのナショナルセンターが共同のバイオバンクを構築しています。当計画を推進するにあたり、ToMMoはナショナルセンター・バイオバンクネットワーク(NCBN)と連携し、共同研究による疾患研究に取り組んでいます。

連携による主な成果

ToMMo、岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構(IMM)、理研統合生命医科学研究センター、国立がん研究センター社会と健康研究センターらは、BBJに参加した日本人約16万人の遺伝情報を用いた大規模なGWAS解析と日本人約1.5万人による再現性の検証、欧米人約32万人との民族横断的解析を行い、体重調節に関わるヒトゲノム上の193の遺伝的変異(感受性領域)を同定しました。このうち、112領域は初めて同定されたものです。また、組織特異的なエピゲノム情報とGWASの統合解析により、過去に報告されていた脳の細胞に加えて、免疫細胞のリンパ球が体重調節において主要な役割を果たすことを示す複数の遺伝学的な証拠を見出しました。さらに、GWASの結果を用いて、33の病気と体重の遺伝的な関わりを評価したところ、2型糖尿病や心血管病などの生活習慣病だけでなく、精神疾患、免疫・アレルギー疾患、骨関節疾患における遺伝要因と体重の個人差に関わる遺伝的因子との間に共通性があることを見いだしました。体重の個人差に影響する遺伝要因について、遺伝学的な知見だけでなく、体重と病気との関わりや、生物学的に関連する組織や細胞型など広範な視点から新しい知見を提供するもので、今後体重に関わる幅広い科学分野での研究の発展に寄与するものと期待できます。

また、当計画のバイオバンクには、宮城県と岩手県で実施した大規模ゲノムコホート調査による各世代を網羅した15万人分の試料・情報が登録されています。一方、NCBNの一つである国立長寿医療研究センター(NCGG)のバイオバンクには、高齢期に発症する認知症や運動器疾患など2万人分の疾患コホートの試料・情報が登録されています。2つのバイオバンクが連携協定を結び共同研究を実施することで、老年病原因遺伝子の同定、地域特性の検証や健康な高齢者とその加齢特性の解析など多岐にわたる研究成果が期待されています。

NCGGとの共同記者発表

さらに、ToMMoとIMMはオーダーメイド医療の実現プログラム(BBJ)、九州大学・久山町研究(久山町)、多目的コホート研究(JPHC Study)、日本多施設共同コーホート研究(J‒MICC)という日本を代表するコホート調査とバイオバンクの連携により、ゲノム情報に基づく脳梗塞の発症リスクを予測する新規手法を確立しました。この手法を用いて脳梗塞のかかりやすさを推定し、生活習慣の改善などに役立てることで、脳梗塞の予防に寄与できる可能性があります。また、脳梗塞以外の様々な疾患(生活習慣病・がん・うつなど)に応用することで、一人ひとりの体質に合わせた個別化医療・個別化予防の一助となることが期待できます。

 

国内外の大学・研究機関との連携

我が国の多くの国民が罹患する一般的な病気(動脈硬化、高血圧、脂質異常症、糖尿病、呼吸器疾患、感覚器疾患、アレルギー、精神疾患、認知症、周産期疾患など)の原因解明とゲノム・オミックス情報に基づいた疾患発症リスクの予測手法の開発などを国内外の大学研究機関と取り組むことで、個別化予防の実用化を目指しています。

国内での連携

コホート調査を共同で実施しバイオバンクを協力して構築するなど、当計画の推進をIMMとともに行っていますが、調査で得られた情報等を解析する研究などにも同様に協力して取り組んで成果を出しています。2018年にToMMoとIMMの共同研究でNaの感受性遺伝子について解析し、食塩感受性(食塩摂取量に応じて血圧が変動しやすい体質)に影響を与える新たな遺伝的多型を発見した成果報告を行っています。

また、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)との共同研究により、当計画のコホート調査に参加された住民のうち、6人分の保存血液細胞からiPS細胞を樹立することに成功しました。この成果により、本バイオバンクに保存されている約15万人分の血液細胞から、必要に応じてiPS細胞を樹立する道が開けました。今後、本バイオバンクに登録されている遺伝情報や健康調査情報とiPS細胞技術を組み合わせることにより、細胞の機能に影響を与える遺伝子多型を同定する研究や、個人の特徴に合った疾患治療法や予防法を開発する研究が進展することが期待されます。

iPS 細胞研究所との共同記者発表

他にも、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)と2019年2月8日に、健康長寿社会実現への貢献を目指し、相互に連携して取り組むための基本協定を締結しました。JAXAとToMMoは宇宙環境を利用したマウス飼育ミッション等で得られたデータとコホート研究を活用し、個別化予防、先制医療などの次世代医療の研究を推進するとともに、ヒト疾患への対策や加齢に関する仕組みの解明を行っています。また、JAXAが提供する「きぼう」の研究開発基盤及びToMMoの最先端研究を組み合わせることによって、初めて宇宙と地上にまたがるデータセットを整備することで、実現可能な創薬や産業利用等への幅広いニーズへの適用を目指しています。

JAXAとの基本協定締結式

また、学内においては東北大学の10部局(東北大学病院・大学院 医学系研究科・ 加齢医学研究所・大学院 情報科学研究科・大学院 歯学研究科・大学院 薬学研究科・大学院 医工学研究科・大学院生命科学研究科・大学院工学研究科・東北メディカル・メガバンク機構)が協力し、未来型医療拠点の中心的な役割を担う組織として未来型医療創成センター(INGEM)を運営しています。ToMMoの15万人超の健常な方のサンプルやデータと大学病院の患者さんの生体情報および臨床情報を活用し、人工知能を含むデータ科学に基づく研究など世界最先端の解析を行うことで、個別化医療・予防を実現します。

国際的な連携

2015年2月にLifelines(オランダ)とのシンポジウム開催を機に、2021年7月までに5回のセミナー開催や複数の共同研究(例:二国間の配偶者同士の類似性を比較)を進行しています。2020年11月には東北大学主催の国際イベント「知のフォーラム」にLifelinesの研究者を演者に迎え、各プロジェクトの進捗、そしてどのようにしてオミックス情報と健康情報を結び付け解析するのか、その結果をどのようにして社会に還元していくのかなど、についてのウェブシンポジウムを開催するなど、密に連携を図っています。

2016年3月には山本雅之機構長らが英国を訪問し、UK BiobankやImperial College London(英国)でワークショップを開催し、ゲノム解析と医療情報との関係を中心に議論を行いました。また、Karolinska Institute(スウェーデン)とはこれまで2回のシンポジウムを開催し、バイオバンクと生化学をテーマに議論を行いました。さらに、2019年3月には、AMED-GA4GH GEM JAPANワークショップシンポジウムを開催し、ゲノム情報統合データベース整備事業とデータシェアリングについての議論がされました。他にもGenerationR(オランダ)、Taiwan Biobankなど、複数の研究機関等と国際的な連携を行っています。

2016年に開催されたUKバイオバンクとのワークショップ

 

産業界との連携

大規模前向きコホートの特性を活かして、新規バイオマーカー探索やそれを利活用したセグメント創薬、そして医薬品の効果や副作用を投薬前に予測するための体外診断薬などの開発に向けて、産業界との協力を進めています。
今後、産業界での本バイオバンク資源の積極活用を促進するため、産業界・アカデミアに特化した相談窓口を設置し、積極的かつ安定的なコホート調査の運営と試料・情報の分譲促進を行っていきます。

連携による主な成果

これまで炎症性腸疾患、白血病、リウマチ性疾患、臓器移植後の治療におけるチオプリン製剤の重篤な副作用は事前予測方法がなく、慎重な投与にもかかわらず一部の患者さんで重篤な副作用が発症し、治療の中断や入院加療を余儀なくされてきました。そこで全国の炎症性腸疾患の患者さんから提供された約3,000検体のDNAをバイオバンクで管理するとともに、ToMMoが構築した3,554人の日本人の全ゲノムリファレンスパネルを活用し、日本人を含む東アジア人で知られてきたチオプリン製剤による重篤な副作用の発症とチオプリンの代謝酵素の1つであるNUDT15の遺伝子多型との間に強い関連があることを発見しました。そして我々は、重篤な副作用発症に関与するNUDT15の139番目のアミノ酸を決定する遺伝子多型の情報を、正確かつ迅速に提供できる体外診断用医薬品を株式会社医学生物学研究所と開発し、世界で初めて体外診断用医薬品として製造販売承認(2018年4月6日)を取得し、2018年7月2日に販売を開始しました。

また、東北大学COI東北拠点と共同で日本人向けSNP(一塩基多型)アレイである「ジャポニカアレイ®」を2014年に社会実装しました(販売元:東芝)。ジャポニカアレイ®は2017年にバージョンアップ版のジャポニカアレイ® v2、2019年には設計を刷新したジャポニカアレイ®NEO(販売元:サーモフィッシャーサイエンティフィック社)が発売されています。これらはいずれもCOI東北拠点の協力のもと進められています。

ジャポニカアレイ®

アドオンコ(追加)ホートの実施

ToMMoでは、コホート調査に追加する形で行うアドオンコホートを多数実施しています。これまでに構築してきたバイオバンク試料及び情報の利活用、当計画で進めてきたコホート調査をプラットフォームとして企業等と連携することで、新規の試料・情報を収集するアドオンコホートを発展させました。ゲノム・オミックス情報や他の基礎的な情報がそろった当計画の参加者に対し、アドオンコホートを行うことで、更に幅広い情報収集を行うことが可能です。事業推進における企業群との定期的な意見交換会やバイオバンク利用の環境整備などを行い、産業界での本バイオバンク利用促進に取り組んでいます。

オムロン ヘルスケア株式会社との共同記者発表

例えば、オムロン ヘルスケア株式会社と実施した共同研究では、自宅に持ち帰る「家庭血圧計」、自宅で尿中のナトリウム・カリウム排泄比を測定できる「尿ナトカリ計」、睡眠時間・睡眠効率等を評価する「睡眠計」、身体活動量を評価する「活動量計」をコホート調査参加者に貸与し、10日間測定していただきました。2020年9月時点で8,000人を越える方々からデータを取得しています。
株式会社ヤクルト本社と実施している共同研究では、追跡調査の調査票に加え、乳酸菌飲料の摂取状況にも回答いただき、2020年9月までに4.2万人からの協力を得ています。また、2,500人の方々に便検体の採取にご協力いただき、「腸内細菌叢」の状態を評価しています。毎年継続的にご協力いただいており、2020年9月までに3回目の便検体収集を開始しています。

コンソーシアム形成によるコホート・バイオバンク利活用の促進

ToMMoでは各業種の主な団体に対して個別の専用対応窓口を設け、コンソーシアム形成によるコホート・バイオバンク利活用を促進しています。2021年、武田薬品工業株式会社を中心に製薬業界との連携実現に至ったことをモデルに(詳細)、今後、医療機器、食品、情報等の業種とのコンソーシアム形成による強力な連携を目指します。さらに、東北大学の産学連携機構等の支援を活用して、ベンチャー企業等の多様なプレイヤーとの連携を強化していきます。

自治体との連携

ToMMoは、2012年9月に宮城県と事業協力のための協定書を取り交わしました。また、宮城県内の全市町村とも協定を結んでいます。協定の締結後も定期的に各自治体の訪問、地域協議会などを開催し、事業の活動方針や報告を行ってきました。
2021年3月末までに宮城県をはじめ全市町村と協定継続の覚書を締結し、事業協力の協定を延長しました。地域住民の健康支援をはじめ各行政機関が行う医療サービスとの密接な連携を図ってまいります。

自治体訪問・協定締結・地域協議会

地域協議会にて

自治体健康施策への取組

コホート調査の推進活動の一環として、宮城県内自治体の健康施策に貢献しています。例えば、津波避難訓練の有効性についてのToMMoの論文成果に基づき、津波避難訓練の重要性について高校での講演実施や、小学校での歯磨き指導、登米市における減塩施策への対策協力など、各自治体に協力支援を行っています。

みやぎ医療福祉情報ネットワーク協議会(MMWIN®)

東日本大震災では津波でカルテが失われた医療機関がある一方、カルテを電子ネットワークで遠隔保管していた医療機関がありました。電子カルテシステムによって診療記録が守られ、災害下での医療情報ネットワークの有効性が示されました。災害に強い医療情報ネットワークを医療現場に構築するため、ToMMoはオール宮城体制で運営されるみやぎ医療福祉情報ネットワーク協議会(MMWIN®)と協働して地域の医療福祉情報のICT化を推進しています。