コホート調査における遺伝情報回付

東北メディカル・メガバンク計画で得られた遺伝情報解析の結果は、個別に、それぞれの参加者の方々の健康に役立てられるように返却(私たちはこれを「回付」とよんでいますので以降「回付」と表します)することがあります。遺伝情報解析の結果を、大規模な研究の枠組みで個々の参加者の方々に回付するのは、日本では私たちの取り組みまで例がなく、海外を含めても数少ない事業です。本ページで、コホート調査の参加者の方々への個人の遺伝情報解析の結果回付について、ご紹介します。

1 遺伝情報回付研究

一人ひとりのゲノムの特徴を健康の維持や病気の予防に活かす未来の医療。その実現のためにはまず、自分自身の遺伝情報を知る必要があります。しかし私たちが取り組むまで、日本では大規模な研究の枠組みで個人に遺伝情報をお伝えした例はなかったため、遺伝情報回付研究を開始しました。

1-1 研究の意義

研究目的で収集した一般住民のゲノム情報を、研究参加者自身に回付している事例は世界的にも十分ではなく、数少ない諸外国の実施例も社会的背景が異なることなどから、そのまま適用することはできません。このため日本の実情に合った遺伝情報回付を検討する必要がありました。

東北メディカル・メガバンク計画では、コホート調査参加への同意取得時に将来ゲノム情報を回付する可能性があることを参加者に説明しました。その後、疾患との関連が明確で、医療上の対策がある生殖細胞系列の病的変異について参加者に回付する方法を検討してきました。これまでの検討は遺伝情報回付事業の背景と経緯をご覧ください。

1-2 進捗状況

2015年に遺伝情報等回付検討委員会を設立し、検討を重ねたうえで、2016年より3回のパイロット研究を実施しました。パイロット研究の結果を踏まえ、2022年から2024年に、5万人を対象とした遺伝情報回付として遺伝性腫瘍に関する情報を回付する事業を実施しました。

1-3 パイロット研究

遺伝情報を回付するための手法や、回付した際の影響などを慎重に検討しながら進めるため、大きな規模での研究・調査に先立って、パイロット研究を実施しました。これまでに実施したパイロット研究は以下のとおりです。

  対象 期間 人数 関連論文 詳細
第一回 家族性高コレステロール血症 2016/10~2020/3 196名 Kawame et al., J. Hum. Genet. 2021 成果報告
第二回 医薬品の反応性 2019/10~2024/3 161名 Ohneda et al., JMA 2022 成果報告
第三回 遺伝性腫瘍 2020/9~2024/3 6名 Ohneda et al., Breast Cancer 2022 成果報告

 

1-4 関連映像

東北メディカル・メガバンク計画のコホート調査で、遺伝情報回付を受けた方々に向けて、詳しく説明する映像を制作しました。

「特別な対応は必要ない」と言われた方々に

1-5 成果

1-5-1 論文成果

遺伝情報回付事業のデザイン論文

医薬品の反応性に関する遺伝情報回付事業に関する論文

BRCA1/BRCA2を対象とした遺伝情報回付パイロット研究

5万人のゲノム情報をもとに遺伝性がんのゲノム解析結果を返却

1-5-2 その他

日本では初めての取り組みのため、いくつかの他の回付研究で参考にしていただいています。具体的な成果が発表され次第ご紹介します。

2 遺伝情報等回付検討委員会

遺伝情報等回付検討委員会は、東北大学と岩手医科大学が構成する東北メディカル・メガバンク計画推進合同運営協議会のもとに設置され、両大学以外に所属する委員長と、10名程度の委員から成ります。

委員会は、元日本人類遺伝学会理事長の福嶋義光委員長(信州大学名誉教授)をはじめ、遺伝医療・遺伝カウンセリング・倫理などの専門家から構成されています。2015年5月に第1回を開いて以降、数か月に1度のペースで議論を重ねています。

本委員会では、設立から数年をかけて遺伝情報回付の全体的な在り方や方針について議論して方向性を定めました。以降、個々の回付事業の計画・プロトコル・説明文書・進捗などについてToMMoおよびIMMから報告しつつ議論が行われています。