背景と経緯

背景

東日本大震災の被害からの地域医療の復興と、大規模情報化に対応した新たな医療の構築

東北メディカル・メガバンク計画の提案に至る背景は大きく分けて、2つあります。一つは、震災により甚大な被害を受けた被災地における医療の再生と地域医療の復興の必要性、そして、世界的な趨勢である大規模な医療情報化の流れに対応し新たな医療を構築することです。

2011年3月11日に発生した東日本大震災は、東北地方の沿岸部を中心に壊滅的な被害をもたらしました。多くの病院が壊滅的被害を受けるという深刻な事態に対して、病院・医療関係者・自治体関係者の多くが、各病院の再建・修復、医師・医療系スタッフの雇用の確保に奮闘してきました。

東北大学大学院医学系研究科も、総合地域医療研修センターを設置して医療関係者の緊急雇用確保に努めると共に、医学科入学定員の時限的増加、地域保健支援センターによる被災地域の保健システムの再建など、最大限の対策を行ってきました。これらは、大きく傷ついた東北地方の医療システムに対する応急措置と言えるでしょう。しかしながら、この地方の本格的な復興のためには、地震と津波によって失った機能をそのまま元に戻すだけでは復旧にすら至りません。東北地方の医療の本格的な復興のためには、これらの措置に加えて、長期にわたり地域全体の住民の健康被害に対応しながら、復興の核になるようなプロジェクトが必要と考えました。

東北地方が抱える厳しい医療過疎問題は、近年、より深刻さを増してきています。地域の医療機関を再建することは必須ですが、再建後の医療機関で働く人材確保は急務であり、また、再建に要する期間の人材流出を防ぐ必要もあります。東北の地に、未来型医療の拠点を形成するプランを掲げ、復興のために最も必要な資源である人材を惹きつける起爆剤とすることは、極めて重要な意義を持つと考えました。

また、東北メディカル・メガバンク機構が実施している、被災地を主な対象とした三世代・地域住民ゲノムコホート事業と、その成果として構築されるコアバイオバンクは、次世代医療を考える上で、欠かせない基礎となります。これまで、同じような生活をしていても同じ病気にかかる人とかからない人の違い、同じ病気に対して同じ薬を飲んでも効く人と効かない人がいる違いなどは、詳細が解明できていないために“体質”といった曖昧な言葉で説明されてきました。ヒトゲノム解読完了以降、ゲノム配列の細かな個人差が“体質”の差を生みだすことがあることが徐々に明らかになってきました。現在、世界各国で、ゲノム情報と環境、病気のかかり易さや薬の効き方との間にある一つひとつの関係性を、膨大なデータを用いて読み解いていこうとするプロジェクトが既に始まったり、準備されたりしています。大規模なデータを用いて読み解いたことが、次代の医療を創り、人々の健康に貢献し、新たな産業の基盤になると期待されているためです。日本においても、いくつかの先行プロジェクトの成果をもとに、今後、より大規模に、網羅的に行う必要性が指摘されてきました。

経緯

東北メディカル・メガバンク構想は、平成23年6月16日(木)に第2回医療イノベーション会議において、山本雅之東北大学大学院医学系研究科長(当時)が提案を行いました。また、宮城県の村井嘉浩知事は同年6月11日(土)に行われた第9回東日本大震災復興構想会議で行った提言の中で、「地域医療の再生への医療連携システムの構築と診療拠点の整備」のために、東北メディカル・メガバンク構想の実現の必要性を述べています。また、同年10月に発表した宮城県震災復興計画の中で東北メディカル・メガバンク構想について、「医療従事者の不足が懸念される中、東北大学を中心としたメディカル・メガバンク構想等を踏まえ、ICTを活用した地域医療連携システムを構築し、県内どこでも安心して医療が受けられる体制を構築」と記述しています。

これらの動きを踏まえ、同構想を盛り込んだ平成23年度第3次補正予算が同年11月21日に成立して、東北メディカル・メガバンク計画を実施するために必要な予算が措置されました。さらに、平成24年度以降も当計画を実施するための予算が措置されてきました。

機構の発足と当計画の第1段階

東北大学は、東北メディカル・メガバンク計画の遂行のために、平成24年2月1日に東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)を設置しました。また、本計画を岩手県においても遂行するにあたり、岩手医科大学が本計画に参画し、いわて東北メディカル・メガバンク機構(IMM)が平成24年7月1日に設置されました。平成24年第4回国家戦略会議で、東北メディカル・メガバンク計画が取り上げられ、医療イノベーション5か年戦略(中間報告)の中でも言及され、さらに同年6月6日の第5回医療イノベーション会議で策定された医療イノベーション5か年戦略に、東北メディカル・メガバンク計画に関わる記述がされました。

文部科学省には東北メディカル・メガバンク計画検討会が設置され、平成24年4月から5月の間に5回の会合が開かれました。検討の内容は提言としてまとめられ、同6月7日には文部科学省で東北メディカル・メガバンク計画への提言手交式が行われ、計画を進める東北大学と岩手医科大学に手交されました。(提言の内容は、文部科学省のウェブサイトで読むことができます。)

提言を受けてまとめられた「東北メディカル・メガバンク計画 全体計画」は、その後、文部科学省に設けられた東北メディカル・メガバンク計画推進本部で数度の改訂が行われています。

*主に第1段階(平成24年度~平成28年度)について記載したものです。

なお平成24年8月31日、総合科学技術会議(第104回)において「東北メディカル・メガバンク計画(『健康調査、バイオバンク構築、解析研究』)」の評価結果が決定されました。

平成25614日に9大臣の申し合わせにより決定した健康・医療戦略では、健常者(住民)のコホート研究・バイオバンクの一つとして、東北メディカル・メガバンク計画が取り上げられています。

平成27年度からは国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の発足に伴い、東北メディカル・メガバンク計画はAMEDの統括のもと進められています。平成28年度からは、これまでの東北メディカル・メガバンク計画推進本部と推進委員会に代わり、AMED及びそこに設けられた東北メディカル・メガバンク計画プログラム推進会議が計画の推進を担っています。

当計画の第2段階

東北メディカル・メガバンク計画は、平成28年度までを第1段階とし、平成29年度から第2段階に入りました。AMEDの東北メディカル・メガバンク計画プログラム推進会議では平成28年度に第1段階の検証と第2段階の計画策定を行いました。推進会議のもと、全国の有識者による課題別ワーキンググループ(WG)である「ゲノム・オミックス統合解析WG」及び「ゲノムコホート連携推進WG」において議論が重ねられ、両WGから中間報告が取りまとめられました。

この中間報告をもとに、推進会議において、当計画の第2段階(平成29年度~32年度)の推進のため「東北メディカル・メガバンク計画 全体計画 改訂版」がまとめられています。

東北メディカル・メガバンク計画は、平成23年度から、10年度間を当初の予定として事業を推進してきました。事業終了予定の前年度にあたる令和元年度から、当計画のこれまでの成果・進捗を総括し、構築したバイオバンク試料・情報やコホートの継続的な発展を目指して検討が開始されました。まず、当機構とIMMとの間で外部有識者を交えた「東北メディカル・メガバンク計画の事後評価及び今後の在り方に関する検討会」が令和元年7月に開催された後、同検討会の報告をもとに、文部科学省ライフサイエンス委員会の下に設置された「次世代医療実現のための基盤形成に関する作業部会」で今後の在り方が検討され、10年度間程度の継続が報告書に記載されました。

そして令和2年7月17日、東北メディカル・メガバンク計画は、「統合イノベーション戦略2020(閣議決定)」の中で「個別化ヘルスケア基盤として重要なゲノム・データ基盤の基礎である「東北メディカル・メガバンク計画」の成果を発展」と明確に位置付けられました。

当計画の第3段階

東北メディカル・メガバンク計画は、令和3年4月から第3段階に入りました。AMEDにおいては、文部科学省科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 ライフサイエンス委員会 次世代医療実現のための基盤形成に関する作業部会によりとりまとめられた「東北メディカル・メガバンク計画の今後の在り方について」(令和2年4月10日)や、ゲノム医療協議会(第3回・令和2年8月4日、第4回・令和2年11月6日)における議論を踏まえ、本計画を担当するプログラムスーパーバイザー及びプログラムオフィサーによる検討を経て、第3段階においてAMEDが進捗管理等を実施する計画としての位置付けで全体計画が作成されました。

第3段階においては、本計画を、我が国最大級の健常人ゲノムコホート・バイオバンクとして維持、充実させるとともに、個別化医療・予防等の個別化ヘルスケア実現に取組みます。そのためには、参加者(データ提供者)やその家族との信頼関係が必要であり、また、自治体との協力も不可欠です。本計画がこれまでに築いた信頼関係をさらに強化し、相互の理解を深めながら事業を進めて参ります。