第一回パイロット研究:家族性高コレステロール血症

~ゲノムコホート研究における個人への遺伝情報の返却(回付)に関するパイロット研究:家族性高コレステロール血症~

コホート調査に参加された方々に、遺伝情報を解析した結果、何か有用な情報が得られたら、適切な手続きを経てお知らせすることは、私たちと参加者の方々との間のお約束(インフォームド・コンセントの同意文書に記載)であると共に、私たちが目指す個別化医療・個別化予防に向けて必須のことです。しかし大規模コホート研究に参加された方に遺伝情報をお知らせした前例はほとんどなく、そうすることで、どのように感じたり行動の変化が起こったりするのか、ご家族へどのように影響するのか、分かっていません。

遺伝情報には他の一般的な健康調査の検査結果にはない、不変性、予測性、共有性という特徴があります。
不変性:遺伝情報は一生変わらない
予測性:病気を発症する前に、リスクのある事がわかってしまう
共有性:親、きょうだいなどが同じ遺伝情報を持っていることがある

こうした特殊な性質を持つ遺伝情報を、どのように皆さまにお伝えしていくべきなのかなどを慎重に検討するために、東北メディカル・メガバンク計画では、限られた人数の方々を対象に遺伝情報の解析結果をお伝えするパイロット研究(試験的な研究)を開始いたしました。

研究の目的:東北メディカル・メガバンク計画によるコホート調査に参加した方へ遺伝情報の解析結果をお知らせすることによっておこる心理面、精神面の変化等について調査します。

研究期間:本研究全体では2016年10月から2020年3月まで。
ご協力いただく期間は、最初の参加時から約1年半です。

対象となる方
(1) 東北メディカル・メガバンク計画のコホート調査(地域住民コホート調査または三世代コホート調査)に登録されている方
(2) 成人(20歳以上)の方
(3) コホート調査参加時の調査票の「結果回付を希望しない」という項目にチェックしていない方
(4) ゲノム解析が行われている方*
(5) コホート調査における血液検査において総コレステロール値、またはLDLコレステロールが高値の方、または調査票において高脂血症(脂質異常症)で加療中や加療歴があると記載のあった方

*東北メディカル・メガバンク計画では、研究に参加していただいた方の一部について、遺伝情報の解析を行っています。今回の研究では、(4)にあるように、遺伝情報の解析が終わっている一部の方が対象になります。また、遺伝情報の解析は終わっていても、家族性高コレステロール血症を含む病気などの原因となる変化があるかどうかの検討は行っていませんので、今回の研究に参加された方に対して、これらの検討を行うことになります。

対象となる方へのご連絡
・東北大学もしくは岩手医科大学からパイロット研究参加をお誘いするお便りが直接届きます。
・なお、今回のパイロット研究は、あくまでも準備段階の予備的な試行的研究であり、コレステロール値が高い全員の方にご連絡をすることも、遺伝情報解析を行った方全員にご連絡することもできません。あらかじめご了承ください。

パイロット研究に参加するには
・対象となる方にはお便りが届きます。そのお便りに、「講習会」への参加のご案内がございます。ご都合の良い会場(各地域支援センター)・日程での講習会にご参加下さい。
・講習会では、今回の研究の概要と、遺伝情報について知るメリット・デメリットなどについて詳しくご説明します。その上で、お一人お一人から研究参加に対する同意を頂きます。
※なお、お便りに対して参加したくないと感じられた方はその旨、ご返信下さい。その際に、同封した調査票(アンケート票)にご協力いただきたくお願いです。また、講習会にご参加された上で、研究参加をしないこともできます。参加しないことによる不利益は一切ありません。

研究に参加すると知ることができること
・家族性高コレステロール血症の原因となる遺伝子のうち、LDLR(LDLレセプター)遺伝子、APOB遺伝子、PCSK9遺伝子の三つについて、病気を引き起こすことがわかっている遺伝子の変化(変異)があるかないかを、再検査を行い確かめ、知ることができます。
・上記の変化があることがわかると、家族性高コレステロール血症の可能性が高いことになり、治療に役立てることができます。

研究に参加しても知ることができないこと
現在までに、家族性高コレステロール血症の原因となる遺伝子として、上記三つの他にもまだ知られていないものがある可能性があります。今回の検査で、調べた遺伝子に変異がないとしても、あなたの高コレステロール血症が、その他の遺伝子に原因がないとは言い切れません。

家族性高コレステロール血症とは
高脂血症の原因となる病気の一つで、日本では、200~500人に1人と言われています。親から子に受け継がれる可能性は50%で、子どもの時から高コレステロール血症などになりやすく、ほかに、皮膚および腱黄色腫(けんおうしょくしゅ)が見られたり、若いころから動脈硬化症が進み狭心症や心筋梗塞などを引き起こすことのあることが知られています。

研究参加にあたってご協力いただくこと
(1)講習会参加のご返信と予約およびアンケートの返送(一回目)
(2)講習会へのご参加
(3) 同意書へのサインとアンケート(二回目)
(4) 採血(約10ml)
(5)遺伝子解析結果の回付(支援センターでの面談による説明と遺伝カウンセリング)
(6)結果説明後のアンケート(三回目)
(7)6か月後郵送によるアンケート(四回目)
(8)12か月後郵送によるアンケート(五回目)

・陽性の場合では、6か月後のアンケートの後にインタビュー調査にご協力をお願いします。

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研究参加にあたっての謝礼
研究に参加した時と、結果の回付の時の2回に分けて、謝礼を進呈いたします。

研究結果を受けての治療について
 A) 研究における検査の結果、遺伝子に原因が見つかった場合
  ・当機構から、東北大学病院糖尿病代謝科にご紹介します。
  ・その後の診療については、保険診療もしくは自費診療になります。

 B)  研究における採血による検査の結果、遺伝子に原因が見つからない場合
  ・家族性高コレステロール血症の可能性は低いことになります。
  ・ご希望に応じて、東北大学病院糖尿病代謝科にご紹介します。

研究に参加することでの利益
家族性高コレステロール血症という病気が確定できた場合に 体質に合った適切な治療法を受けることかができます。家系内に同じ病気を持つ家族がいるかどうかも調べることができるの、家族の治療に役立つことも考えられます。

研究に参加することでの不利益
・時間的なこと:
地域支援センターでの検査、講習会、アンケートを記入する時間がかかります。

・遺伝情報を知ることによること:
〇家族性高コレステロール血症という病気であることが確定された場合に、ショック、不安が生じ、その事実を受け止めることができなかったり、家族への遺伝に関する不安を感じる可能性があります。この可能性については、研究参加の際に十分に説明を行い、かつ回付の際には、認定遺伝カウンセラー、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングを提供し、必要に応じて継続します。一方、遺伝学的検査が陰性の場合でも、家族性高コレステロール血症の可能性が完全に否定はできないという曖昧な結果になる場合があり、ストレスにつながる可能性があります。
〇遺伝情報の特殊性から、呼びかけの際、あるいは研究の途中、回付後においての調査において、抑うつ等が生じる可能性があります。その場合、各機構内のメンタルヘルスの専門家、または各病院において対応を行います。
〇遺伝性の病気と判明して、就職・結婚・保険への加入などに関して、現時点では予測できないような不利益が生じる可能性がないとはいえません。

・採血のこと:
一般的な検査の範囲内とはいえ、採血の際に痛みや気分の不調、神経損傷などを起こすことがあります。

研究を途中でやめるには
・本パイロット研究へのご参加は自由で、参加した後で途中で取りやめることもできます。

・本パイロット研究へのご参加は、もともとのコホート調査へのご参加と切り離してご判断して頂けます。ただし、もともとのコホート調査へのご参加を完全に取りやめた場合には、お伝えするべき情報も同時に消去されてしまいますので、本パイロット研究だけのご参加はできません。

・取りやめる場合には、下の問い合わせ先までご連絡下さい。
東北大学 東北メディカル・メガバンク機構 遺伝情報回付推進室
〒980-8573 宮城県仙台市青葉区星陵町2-1
Tel:022-274-5995(平日10時から16時)

よくあるQ&A

Q:研究参加の呼びかけの手紙をもらったのですが、私は、家族性高コレステロール血症という病気なのですか?
A:まだ、病気であるかはわかっていません。遺伝情報の解析は終わっていても、病気などの原因となる変化があるかどうかの検討は行っていませんので、今回の研究に参加されて、初めて家族性高コレステロール血症の遺伝子の検討を行うことになります。

Q:陽性でしたが、近所の病院(東北大学病院や岩手医科大学附属病院以外)を紹介して下さい。
A:ご紹介可能です。ただし、一度、東北大学病院に受診ください。その上で病院より、近くの病院やかかりつけ医へのご紹介をいたします。東北大学病院への受診のための予約の手続きは、当方のスタッフが日程等のご希望に沿って行わせていただきます。

Q:お金は、いくらかかりますか?
A:研究の参加には、費用はかかりません。ただし、研究参加の同意や結果の説明のために、地域支援センターにお越しいただくことが必要で、そのために交通費がかかります。

Q:仙台までは遠くて、行くことができません。
A:講習会や説明同意、また結果の説明は、宮城県内7か所にある地域支援センターで行います。研究参加の呼びかけの際に、どのセンターをご希望されるかを伺います。ただし、今回の検査で家族性高コレステロール血症を有している可能性があるとわかった方の場合、その治療や健康管理のために東北大学病院をご紹介いたしますので、仙台にお越しいただくことになります。

Q:家族・友人にも調査を受けさせたいのですが?
A:東北メディカル・メガバンク計画のコホート調査の参加者であり、以下の要件に当てはまる方は参加いただけます。
・東北メディカル・メガバンク計画のコホート調査に登録されている方
・成人(20歳以上)の方
・調査参加時の調査票の「結果回付を希望しない」という項目にチェックしていない方
・ゲノム解析が行われている方
・コホート調査における血液検査において総コレステロール値、またはLDLコレステロールが高値、または調査票において高脂血症(脂質異常症)で加療中や加療歴のある方

今回の研究の対象となる方には、研究参加の案内を送付開始しています。なお、コホートに参加していない方は、今回の研究にはご参加いただけません。

関連リンク

ゲノムコホート研究における個人への遺伝情報の回付に関するパイロット研究(第1回 家族性高コレステロール血症)で、延べ200人以上の方に結果をお伝えしました