複合バイオバンクの整備と充実

東北メディカル・メガバンク計画が目指す個別化医療・個別化予防。これは個人の体質や病気の特徴に合わせて予防や治療を選択する、次世代の医療を指しています。
こうした医療を実現するためには「一人ひとりの詳細な情報」に基づく研究を進める必要があります。私たちはさまざまな種類、そして膨大な量の「一人ひとりの詳細な情報」を収集することにより、次世代医療を実現するための基盤を作っています。

15万人の試料・情報を集約した研究基盤の構築

当計画では、2013年から実施している長期健康調査参加者15万人から提供いただいた試料・情報を統合的に収集・解析・保管する複合バイオバンクを構築しています。これらは、岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構(IMM)とともに実施しています。
収集・解析した試料・情報は次世代医療実現を目指す全国の研究者に、必要な手続きを経て分譲しています。分譲についてはこちらをご覧ください。

生体試料を保存する凍結保存容器

本バイオバンクでは血液や尿などの生体試料と年齢等の基本情報、検査情報、調査票に基づく生活習慣等の情報に加え、ゲノムやオミックスの最先端の解析を行い、これらの試料、情報を安全かつ質の高い方法で保管しています。このような質の高い解析情報を統合的に保管することにより、個々の研究ごとに研究者が解析することが不要となり、研究を効率化し、かつ試料の枯渇を防ぐことができます。
こういった解析の機能を併設し、試料と情報を統合的に利活用するバイオバンクを「複合バイオバンク」と呼び、研究基盤として多くの研究者に利用されています。
なお本バイオバンクは、コホート調査に参加された方々の試料・情報を継続的に収集しております。数年ごとに行う詳細調査でいただく試料・情報に加え、参加者の同意のもとに公的機関および医療機関より健診情報や疾病登録情報を取得し、縦断的な健康情報が蓄積されています。このような取組の継続により、胎児期、乳幼児期から成人期、そして高齢期のそれぞれのライフステージの試料・情報が蓄積され、人のライフコースにわたるバイオバンクの形成が実現します。

 

試料・情報の品質と管理

本バイオバンクのすべての試料・情報は、高い品質を保ち十分なセキュリティのもとで保管されています。収集された試料はすべてバーコードで管理され、分注、調整、保管などのほぼすべての作業工程をLIMS(Laboratory Information Management System)と呼ばれるシステムに記録することでトレーサビリティを確保しています。さらに、ほとんどの工程をロボットなどによって自動化することで人為的なミスを最小限に抑えています。 試料の特性や出庫の頻度に応じて2種類の保管庫を使い分け、効率的な保管・運用を行っています。また収集したコホートの情報や試料の解析結果を統合して格納するためにdbTMMと呼ばれる統合データベースを構築しています。整理が終わった情報から順次格納し、十分なセキュリティのもとで多くの研究者に活用していただいています。(情報の利活用についてはこちらをご覧ください)
こういった本バイオバンクの取組が評価され、バイオバンク室、統合データベース室、試料・情報分譲室では、国際標準化機構(ISO)の認証を取得しています。(詳細

コホート調査により得られる調査票や検査結果等の情報は、多くの場合、思い違いや書き間違い、機器や測定者のバイアスなどの偏りが含まれています。こういった偏りを考慮し均一な状態に調整します。試料の解析は基本的に統一プロトコルで実施しサンプル間の偏りを最小限にしています。コホートの情報、試料の解析結果はすべてスーパーコンピュータに保管します。
試料や情報は事故や災害など万一の事態に備え、停電時も非常用電源設備によって2~3日間程度は独立して機能を維持できる体制を構築しているほか、一部の重要な情報については遠隔地でのバックアップなどの対策を行っています。

 

ゲノム解析基盤

当計画では2021年4月現在8,000人以上の高精度全ゲノム解析を完了しています。このデータに基づき、日本人のゲノムのバリエーションをカタログ化したデータ「全ゲノムリファレンスパネル8.3KJPN 」を構築しています。このデータは、日本人のもつ0.01%以上の頻度の変異(バリアント)をほぼ網羅しており、さまざまな疾患研究の参照データとして利用されています。また、得られた数千人分の全ゲノム解析結果をもとに、日本人に最適化したSNPアレイの開発を行い、ジャポニカアレイ®として上市しています。主にこのアレイを用いてコホート調査参加者15万人全員の解析が完了しています。その結果に上記の数千人分の全ゲノム解析結果を組み合わせて遺伝子型インピュテーションを実施することにより、1,000万以上のSNP情報を収集しています。SNPアレイ解析は全ゲノム解析より安価かつ高速でゲノム解析が可能なため、数万検体レベルのGWAS解析計画が可能となります。

ジャポニカアレイ®

さらに「日本人基準ゲノム配列」を作成し公開しています。これをひな型とすれば、これまで解析できなかった民族集団特有のゲノム配列が明らかになります。このように、全ゲノム解析データとこれをもとに構築されるさまざまなゲノム解析情報を研究基盤として構築しています。

また、さらに低頻度の変異をカタログ化するために、国と製薬会社が協力して10万人分の全ゲノム解析を目指しています(詳細)。これにより、より低頻度の変異を対象に、疾患発症との関連を調べることが可能となります。また、ゲノム情報と疾患の関連が明らかになることで、新たな治療薬の開発につながることも期待されます。

 

オミックス解析基盤

オミックスとは網羅的な生体分子のことであり、例えば代謝物の網羅的解析 はゲノムと疾患等の表現型をつなぐ中間の情報として注目されています。ゲノムだけでは解明が難しい疾患の機序や治療法の解明、そして特にバイオマーカー発見のための重要なピースになると考えられています。コホートにおけるオミックス解析の重要性は認知されつつあり、国内外で解析が始まっています。当計画では、すでに数万人分のメタボローム解析を完了し、一部については情報を公開しています。今後はさらに、トップランナーとしてメタボロームの解析を推進するとともに、トランスクリプトーム、エピゲノムについても解析人数を拡大します。
また全身疾患との関連が注目される口腔内のメタゲノム解析も実施しています。

基盤形成により得られた試料・情報の活用と発展

基本となる試料・情報のほかに、産学連携やテクノロジーの発展に伴う新たな試料・情報の取得を実施しています。例えばウェアラブルデバイスにより得られる情報は客観性に優れ、高品質、高頻度に取得可能です。これまでの調査を継続するだけでなく、新しい情報を常に取り入れ、本バイオバンクに蓄積しています。こういった追加の調査(アドオンコホート)は新たに参加を募るのではなく、もともとの参加者の一部が対象となるため、ベースとなる調査で得られている生活環境やゲノム情報を組み合わせた解析が可能です。
またGWASセンターにおいて、当複合バイオバンクの情報や解析基盤を活用して、他研究機関由来の試料・情報の解析と得られた成果の共有を行い、複合バイオバンクの充実および日本のゲノム医療研究への貢献に努めています。

スーパーコンピュータ

本バイオバンクに蓄積した試料・情報を用い、世界をリードする研究を行っています。
・ 複合バイオバンクの情報に人工知能、機械学習技術等を適用した疾患のリスク予測(詳細
・ 疾患をさらに細かく、かつ複数の疾患を横断的に考慮する深層病型分類
・ NMRやクライオ専用透過型電子顕微鏡等を活用したタンパク質の構造解析による遺伝子バリアントの機能評価
等に取り組んでいます。また他の研究機関の疾患バイオバンク等と協力し、当計画のバイオバンクと横断的に利用可能なネットワークを作っています。(バイオバンク横断検索システム

複合バイオバンクである本バイオバンクは国内有数の取組であり、バイオバンク事業の先駆者として、設立、運用のノウハウ、より良い試料の処理や解析手法の確立、保管や運用方法の標準化、倫理的・法的・社会的な課題などさまざまな面でリーダーシップを発揮し、日本全体のバイオバンク発展に貢献しています。

関連リンク

 


遺伝子型インピュテーション
観測済みの遺伝子変異情報から未観測の遺伝子変異情報を推定する手法。遺伝子型インピュテーションを適用するとSNPアレイの解析結果から全ゲノム解析に近い精度の解析結果が得られる。