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2018.05.02

震災において身体的外傷を受けた人は、軽度であっても心理的苦痛の程度が高い ー 七ヶ浜での研究成果

東北大学東北メディカル・メガバンク機構予防医学・疫学部門の成田暁助教は、同部門の辻一郎部門長、富田博秋教授、寳澤篤教授、中谷直樹准教授、中村智洋講師、土屋菜歩講師、小暮真奈助教と共同で、七ヶ浜健康増進プロジェクト*1に関する論文、「東日本大震災における軽度身体的外傷と心理的苦痛の関連」を発表しました。

震災約1年後までに同プロジェクトに参加した、七ヶ浜町にお住まいで20歳以上の3,844人を対象にアンケート調査を行い、Kesslerの心理的苦痛尺度6項目(K6*2)と軽度身体的外傷(すり傷、切り傷・刺し傷、打撲・ねんざ)の関連を評価したところ、外傷なしの方に比べると軽度身体的外傷ありの方では、心理的苦痛のリスクが有意に高くなりました。
この成果は、日本公衆衛生雑誌に2018年4月15日付で出版されました。

〈研究内容〉
【目的】
自然災害による身体的外傷がメンタルヘルスに与える影響に関する研究はこれまでにも報告されていますが、外傷が軽度であってもメンタルヘルスと関連するかどうかは、これまでほとんど検証されていませんでした。本研究では、東日本大震災に起因する軽度身体的外傷と心理的苦痛の関連を検討しました。

【方法】
宮城県七ヶ浜町と東北大学の共同事業「七ヶ浜健康増進プロジェクト」が東日本大震災から約1年後に行った調査に参加し、調査票で大震災に起因した外傷についての設問およびK6の全設問に回答した対象者3,844名(男性1,821名/女性2,023名)を解析対象としました。
身体的外傷のうち、「骨折」を除く「すり傷」「切り傷・刺し傷」「打撲・ねんざ」を軽度身体的外傷と定義し、心理的苦痛(K6で24点満点中13点以上を「心理的苦痛あり」、12点以下を「心理的苦痛なし」と定義)と軽度身体的外傷の関連を、ロジスティック回帰分析と呼ばれる統計学的方法を用いて評価しました。

【結果および結論】
身体的外傷なしの群と比較して、軽度身体的外傷ありの群では心理的苦痛のリスクのオッズ比が2.18(1.32-3.59)と高く、統計学的に有意に大きい傾向が見られました。この結果から、心理的苦痛を有する被災者へのケアを考える上で、軽度であっても身体的外傷を有する方々を視野に入れることの重要性が示唆されました。

【論文名】
東日本大震災における軽度身体的外傷と心理的苦痛の関連:七ヶ浜健康増進プロジェクト
掲載誌:日本公衆衛生雑誌 65巻4号
著者:成田 暁・中谷直樹・中村智洋・土屋菜歩・小暮真奈・辻 一郎・寳澤 篤・富田博秋
Doi:https://doi.org/10.11236/jph.65.4_157

【用語解説】
*1 七ヶ浜健康増進プロジェクト: 東日本大震災以降、七ヶ浜町と東北大学の共同事業として、富田博秋教授が中心となって行う、健康づくりへの様々な取組。2011年5月以来、仮設住宅での茶話会と健康相談を重ねると共に、被災者対象の健康調査も行っている。
*2 K6: 心理ストレスを含む精神的な問題の程度を測る尺度として、国際的に広く用いられているもの。米国のKesslerらにより開発され、6問の質問紙調査からなる。うつ病・不安障害などの精神疾患をスクリーニングすることなどを目的に、一般住民を対象とした調査で広く利用されている。

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予防医学・疫学部門 個別化予防・疫学分野 寳澤研究室