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2023.10.12

クリニカルバイオバンクの血漿検体を活用した標的メタボローム解析による子宮体がんのバイオマーカー探索に関する論文が掲載

当機構の菱沼 英史助教、島田 宗昭教授、小柴 生造教授らの研究グループは、クリニカルバイオバンクに保存された子宮体がん患者の血漿を用いた標的メタボローム解析を実施し、子宮体がんに特徴的な代謝物プロファイルを明らかにしました。

子宮体がんは女性生殖器に発生する悪性腫瘍の中で最も頻度が高く、日本を含む多くの国で罹患率が増加しています。子宮体がんは不正出血を伴うことが多く、約半数の症例は早期(IA期)に診断され、その治療成績も良好です。しかしながら、進行した状態で診断された場合、治療成績は必ずしも良好ではありません。子宮体がんの治療方針は手術療法を基本とし、摘出した病理組織標本の診断結果に基づき再発リスクを評価し、再発の中・高リスク症例には術後療法として薬物療法を追加します。したがって、子宮体がんの早期発見や有効な治療選択には、診断、治療効果および再発リスクを予測するバイオマーカーの特定が非常に重要となります。生体内の代謝物の網羅的解析手法であるメタボローム解析は、個人毎の表現型の違いをより良く反映しているとされ、疾患のバイオマーカーの探索研究に幅広く利用されている解析手法の一つです。

本論文では、これまでにToMMoのコホート研究で導入している標的メタボローム解析キットを用いて、子宮体がん患者142名の血漿中の628代謝物を定量分析し、その代謝物濃度の違いをToMMoのコホート参加者の血漿検体の分析結果と比較しました。その結果、子宮体がん患者の血漿中において、シスチンやトリグリセリドなど111代謝物の有意な増加と、トリプトファン、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、リゾホスファチジルコリンおよびホスファチジルコリンなど148代謝物の有意な減少が認められました。また、トリプトファンやヒスチジンなどのアミノ酸やコルチゾールなどの代謝物が、子宮体がんの再発リスクの上昇や病期進行と相関することを見出しました。また6種の代謝物(コルチゾール、トリプトファン、ヒスチジン、メチオニン、アルファアミノアジピン酸、カルニチン)においては、子宮体がん患者治療後の再発と有意な関連性が認められました。これらの代謝物は子宮体がんの病態や進行を制御する因子であることが示唆され、子宮体がん患者のバイオマーカーとして有用であると考えられます。

本研究の成果は、血漿中の代謝物測定技術を子宮体がんの診断や術後経過モニタリングへの補助的活用および再発予測などに応用できる可能性があり、患者ひとりひとりの病態に合わせた最適な個別化医療を提供する未来型医療への貢献が期待されます。

本論文は、2023年10月11日にCancer & Metabolism誌の電子版に掲載されました

書誌情報

タイトル:Identification of predictive biomarkers for endometrial cancer diagnosis and treatment response monitoring using plasma metabolome profiling
著者名:Eiji Hishinuma, Muneaki Shimada, Naomi Matsukawa, Yoshiko Shima, Bin Li, Ikuko N. Motoike, Yusuke Shibuya, Tatsuya Hagihara, Shogo Shigeta, Hideki Tokunaga, Daisuke Saigusa, Kengo Kinoshita, Seizo Koshiba, Nobuo Yaegashi
掲載誌:Cancer & Metabolism
掲載日: October 11, 2023
DOI: 10.1186/s40170-023-00317-z