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2020.08.26

医薬品の代謝反応を従来よりも高感度で解析することができる薬物代謝酵素タンパク質-哺乳動物細胞発現系の開発に成功

 東北大学大学院薬学研究科生活習慣病治療薬学分野の平塚真弘准教授(東北メディカル・メガバンク機構、未来型医療創成センター、東北大学病院兼任)とゲノム解析部門の三枝大輔講師、及び東北大学未来型医療創成センター(INGEM)の菱沼英史助教(東北メディカル・メガバンク機構兼任)らの研究グループは、医薬品の代謝反応を従来よりも高感度で解析することのできる薬物代謝酵素タンパク質-哺乳動物細胞発現系の開発に成功しました。
 ヒトにおける主要な薬物代謝酵素であるシトクロムP450(Cytochrome P450, CYP)は主に肝臓に発現しており、臨床で汎用されている医薬品の90%以上の代謝反応を触媒します。したがって、CYPはヒトにおける薬物動態を規定する重要な分子であり、CYP活性の個人差により医薬品の効果や副作用発現が大きく影響されます。医薬品の代謝反応をインビトロで評価する方法の1つとして、哺乳動物細胞に発現させたCYPタンパク質が利用されています。この発現系は、大腸菌、酵母あるいは昆虫細胞発現系に比較してCYP発現量は少ないのですが、タンパク質の翻訳後修飾や補酵素との相互作用がヒトオリジナルであるために正確な評価が可能です。しかし、実際のヒト肝臓と比較して少ない酵素発現量しか得られないために、これまでは高感度な解析が困難でした。
 本研究では、薬物代謝で特に重要な役割を果たしているCYP3A4、CYP1A2及びCYP2C9をモデル酵素として、哺乳動物細胞であるヒト胎児腎由来293FT細胞株への発現ベクターの導入条件、CYPタンパク質合成に必須なヘムの材料となる補因子(鉄イオン及び5-アミノレブリン酸)の添加条件、CYP活性に必須な電子伝達系補酵素(P450オキシドレダクターゼ及びシトクロムb5)の共発現条件を検討し、生体内におけるCYPタンパク質発現量及び活性に近似するための培養方法の最適化を行いました。
 その結果、従来の発現方法と比較して、CYPの酵素活性を約6~11倍上昇させることができ、ヒト肝臓におけるCYPタンパク質とほぼ同程度に発現させる方法を見出しました(図1)。

これにより、これまで極めて困難であった哺乳動物細胞発現系CYPタンパク質の分光光度学的ホロ酵素量の定量が可能になりました(図2)。

さらに、培養細胞への安価な発現ベクター導入試薬の利用により、実験コストを約50分の1に削減することにも成功しました。
 今回開発したCYP発現系は、医薬品の代謝反応を高感度かつ高精度で評価することができるため、特に、遺伝子多型に由来するアミノ酸置換による活性低下型バリアント酵素の機能解析などに応用することで、薬効や副作用発現の遺伝的個人差の解明に寄与できると期待されます。
 本研究成果は、2020年8月25日に英科学誌Scientific Reports誌に掲載されました。

書誌情報

タイトル:Heterologous expression of high-activity cytochrome P450 in mammalian cells 
著者名:Masaki Kumondai, Eiji Hishinuma, Evelyn Marie Gutiérrez Rico, Akio Ito, Yuya Nakanishi, Daisuke Saigusa, Noriyasu Hirasawa, Masahiro Hiratsuka
掲載誌:Scientific Reports
掲載日:August 25, 2020
DOI:10.1038/s41598-020-71035-5
論文はこちらからもダウンロードいただけます。

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東北大学大学院薬学研究科 生活習慣病治療薬学分野
東北大学未来型医療創成センター
東北大学病院 薬剤部