お知らせ
- 2024.08.16
予防的な早期介入を目指した妊娠高血圧症候群の早期発症予測モデルを開発し、論文で発表
ToMMoで推進している三世代コホート調査は、世界初の出生コホートと家系情報付き三世代コホートの両研究デザインを融合させた7万人規模の家系付きのゲノムコホート研究で、産科疾患の個別化予防の研究が進められています。
このたび、三世代コホート調査で収集した生活習慣情報を使用し、母児の健康に影響を及ぼす重要な疾患である妊娠高血圧症候群の早期予測モデルを構築し、論文としてAJOG Global Reports誌で発表しました。
発表のポイントは次の3つです。
・妊娠初期の網羅的な生活習慣に基づいて妊娠高血圧症候群を予測する高性能な人工知能モデルの開発を行った。
・開発した人工知能モデルはAUC※が最大0.93を達成し、妊娠初期の妊娠高血圧症候群の予測性能が高いことが示された。
・開発したモデルの解釈により、妊娠前から妊娠早期の食生活が妊娠高血圧症候群の発症と重症度に関連することが明らかになった。
妊娠高血圧症候群は2〜8%の妊婦が罹患する疾患です。妊婦の妊娠中の様々な合併症だけでなく、児の生涯の健康に影響を与える低出生体重の主要な原因の一つであり、さらに妊婦自身の将来の高血圧のリスク因子にもなる、母児の生涯の健康に影響を及ぼす重要な疾患です。妊娠高血圧症候群は主に、妊娠高血圧症(GH)、妊娠高血圧腎症(PE)、加重型妊娠高血圧腎症(SPE)の、合併症リスクや発祥機序の異なる3つのサブグループに分類されます。これらはいずれも正確な早期発症予測が困難であり、早期介入のための早期予測の確立は、健康社会の実現に非常に重要です。
今回、荻島 創一教授の研究グループでは、妊娠高血圧症候群の疾患概念の階層に従って、全対象者における妊娠高血圧症候群の予測モデル(HDP-nonHDPモデル)、妊娠高血圧症候群対象者における重症化リスクの高いサブグループの予測モデル(GH-(SPE/PE)モデル)、重症化リスクの高い対象者における詳細なサブグループの予測モデル(SPE-PEモデル)の3つの予測モデルを開発しました。

【図1】妊娠高血圧症候群の疾患概念に合わせた3つの人工知能モデルの開発 本研究では、妊娠高血圧症候群の疾患概念に従い、妊娠高血圧症候群の予測モデル、妊娠高血圧症候群のうち重症化リスクの高いサブグループの予測モデル、詳細なサブグループの予測モデルの3つの人工知能モデルを開発した。
妊娠高血圧症候群の予測モデルでは、AUCが最大で0.93という高い性能を示しました。これは、妊娠高血圧症候群の予測に基づきハイリスクな妊婦を注意深く管理することで、発症の兆候を早期に発見し、適切な予防措置を講じることができることを示しています。

【図2】開発した3種類の人工知能モデルの予測性能 本研究で開発した人工知能モデルのうち、妊娠高血圧症候群の予測モデルは高い予測性能を示した。
さらに、本研究では予測性能の高い妊娠高血圧症候群の予測モデルを解析することで、予測に影響力のある重要な因子を解明し、特に妊娠前から妊娠早期の食生活に関係する要因が、妊娠高血圧症候群の発症への影響力が高いことを発見しました。これは、食習慣への予防的介入により、妊娠高血圧症候群の発症リスクを軽減することができることを示しています。
用語説明
※AUC(Area Under the ROC Curve):予測モデルの性能の指標であり、最大は1.0
書誌情報
タイトル:Early prediction of hypertensive disorders of pregnancy toward preventive early intervention
「予防的な早期介入を目指した妊娠高血圧症候群の早期発症予測モデルの確立」
著者:
○東北大学東北メディカル・メガバンク機構 水野聖士、永家聖、菅原準一#†、田宮元、小原拓、石黒真美、栗山進一、八重樫伸生#、山本雅之#、荻島創一
○東北大学病院 齋藤昌利#
○東京医科歯科大学医療データ科学推進室 田中博
#東北大学大学院医学系研究科を兼任、†鈴木記念病院を兼任
掲載誌:AJOG Global Reports
公開日:2024年7月27日
DOI:10.1016/j.xagr.2024.100383