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2013.07.29

「患者・社会の期待すること」NPO法人アラジーポット専務理事 栗山真理子氏

シンポジウム「みんなでつくる未来の医療-東北メディカル・メガバンク事業ができること-」(2012.10.6)講演より再構成

今日は患者、市民、研究や医療関係者の皆さまに知っていていただきたいことを、患者・市民の立場でお話をさせていただきます。まずは、研究なくしては医学・医療の進歩はなく、その研究は患者、市民の協力なくしてはありえない、そして研究が医療に反映されるまでには長い時間がかかるということです。

研究はすぐに成果が出せるものだけではありません。その研究成果が医療応用に至るまでには更に多くのハードルを乗り越えていく過程があり、時間がかかります。ゲノム解析もすぐに医療には反映されるわけではなく、やはり多くの時間と膨大な努力が必要です。そのことをまずは私たちが知って、社会と共有していけるようになればと思います。

私は患者会を主宰している立場で、オーダーメイド医療実現化プロジェクト*1のELSI*2委員をしています。そこでの経験から「時間が必要」ということを実感してきました。このプロジェクトの第一期は、二十万人もの患者さんのご理解とご協力をいただいて、バイオバンク*3に試料を収集する時期でした。このバイオバンクジャパン(BBJ)*4のプロジェクトは最近になって成果が出始め、国際的な発表がされています。しかし成果が発表できるようになるまでには十年の歳月を必要としました。

プロジェクトが始まってからELSI委員として伺った先の病院では、よく「バイオバンクジャパンでは、どんな研究成果が出たのですか」と質問されました。しかしプロジェクト開始から五年がすぎても、「あなたが下さった血液からこんな素晴らしい成果が出て、こんな新しい医療が始まりました」とはほとんどお伝えできませんでした。

この種の事業は、成果が出るまでにはとても長い時間がかかります。そこで、東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)には、事業の長期継続をぜひお願いしたいと思っています。

勿論バイオバンクへの試料提供や自分のゲノム解析に同意して協力した市民の立場からすれば「すぐに成果をみたい」と感じるでしょう。また、研究者の方々も「できるだけ早く成果をお返ししたい」と思われるでしょう。どれだけ時間をかけてもいいと思っているわけではありませんが、BBJの経験から市民の協力が生かされ、研究者の努力が成果となるには時間がかかることをお伝えしたいと思います。

すぐに成果が出なくても、行うべき研究はあると思います。バイオバンクに試料を集めるだけでも社会の協力と大きな労力、莫大な資金が必要ですが、それらを生かすためにもToMMoには長期のスパンで事業を継続してほしい、そう思っています。

さらに市民から提供された試料は有効に使ってほしいと望みます。収集には時間がかかりますし、その前段階にも試料提供のインフォームド・コンセントや、市民が安心して提供でき、事業の行く末を見守れるような体制づくりなど、整備して乗り越えなければならないことが多くあります。それらすべてを乗り越えて成果が出るには十年かかるかもしれません。ToMMoには東北から医療を変えるという心意気で復興事業を行ってほしいと期待しています。ToMMoは地域の医療環境の整備などの医療支援を事業の第一段階として、それから第二段階としてバイオバンク整備やゲノム研究、将来の個別化予防への道を歩んでほしいと望みます。

私が主宰しているアラジーポット*5は、アレルギーの正しい理解のための社会基盤の整備を考えて立ち上げたアレルギーの子どもを持つ親の会です。また代表をしている日本患者会情報センター*6では患者会を社会資源と考えて、登録していただいた患者会の有する機能を可視化できるようにデータベース化して提供しています。私たちは患者の利益のみを主張するのではなく、社会における患者会の役割を考え、その責任を果たしつつ、病気であることはどんなことかを社会に知っていただくことにより、患者や市民にとって生きやすい社会を作る一助になりたいと考えています。研究者と患者と市民が一緒に考え、それぞれの役割を果たすことが大切と思っています。

私は厚生労働省・文部科学省・内閣府の委員や、研究協力者という立場に立つことがあります。その場では患者の視点で研究者や医師とは異なる立場、視点での意見を行政や研究者に伝えるのが役割と考えています。さまざまな立場の方々と同じテーブルで話し合い、社会に発言して、理解を進めていきたいと願っています。

社会の理解の基となることは情報の公開です。ToMMoには、情報の公開をお願いしたいと思います。ToMMoは、多くの方々のかかわるプロジェクトとして行いますから、他のバイオバンクや社会との連携をオープンにしつつ事業を進めてほしい、そう願っております。研究者や医療者だけではなく、患者・市民もプロジェクトを考える場に入って、疑問に思ったことは提議していくことが大事になるでしょう。

市民との協働という点から、分かりやすい情報提供を行い、公開による情報共有と、外部からの質問に答える体制を作ってほしいと思っています。

そうすることにより、市民はバイオバンクやゲノム解析の安全性を判断し、協力し共に歩んでいけるのではないでしょうか。

皆さまと一緒に市民の目線で疑問に思ったことを声にして、話し合っていくことは、私たち市民としての大切な役割の一つだと思います。

 

用語説明

*1 オーダーメイド医療実現化プロジェクト
平成15年度より後述のバイオバンクジャパンに、病気のある方々約20万人のDNA・血清試料・臨床情報などを集めて研究利用しているプロジェクト。一人ひとりに合った医療の実現などを目指しており、疾患関連遺伝子の研究などから多くの成果が出ている。

関連webサイト:オーダーメイド医療実現化プロジェクト

*2 ELSI
ELSIはEthical, Legal and Social Issues(倫理的・法的・社会的問題)の略であり、この場合はとくに、生命科学や医学の研究等に関連する諸問題を指す。

関連webサイト:ELSI委員会の紹介(オーダーメイド医療実現化プロジェクトwebサイト内)  

*3 バイオバンク

生物由来の試料を保管する施設。

21世紀に入り、ゲノム医療への展開を意識しヒト由来の試料を収集したバイオバンクが作られ始めた(例:UKバイオバンク)。そこでは試料提供者の同意の下にDNA解析等が行われ、多くのバイオバンクでは解析データが公開され、その研究応用がさかんである。

*4 バイオバンクジャパン

オーダーメイド医療実現化プロジェクトで、協力医療機関に受診した病気のある方々の協力により提供されたDNAや血清試料等を保管し、研究しているバイオバンク。東京大学医科学研究所に設置されている。

*5 アラジーポット

特定非営利活動法人アレルギー児を支える全国ネット「アラジーポット」
教育機関でのアレルギーの正しい理解と取組により、安全な教育環境の整備を目指し、多くのアレルギーにかかわる方々と連携して教育環境の基盤整備のために活動している。
関連webサイト:アラジーポット

 *6 日本患者会情報センター

患者会は社会に役立つ機能を有する社会資源と考え、登録を希望した患者団体の有する機能を公にするデータベースを構築し、公開している。
関連webサイト:日本患者会情報センター

栗山真理子 プロフィール

NPO法人アラジーポット専務理事。2人の子どもにアレルギー疾患があったことから、学校でのアレルギーの正しい理解のための社会基盤の整備を目指し2002年にアラジーポットを設立した。同時に、国立成育医療研究センターでは患者の立場で共同研究員。

また患者会の社会資源としての機能を社会に知ってほしいと2007年に日本患者会情報センターを設立し、代表をつとめる。日本患者会情報センターでは社会資源としての患者会の機能をわかりやすい形で可視化する患者会データベースを日本で初めて公開した。また「個人の遺伝情報に応じた医療の実現プロジェクト」ELSI委員会 委員でもある。