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2021.07.27

全ゲノム解析情報を活用して医薬品による治療効果や副作用発現の個人差に関与する薬物代謝酵素CYP1A2の遺伝的特性を解明

 バイオバンク部門の平塚 真弘准教授(東北大学大学院薬学研究科生活習慣病治療薬学分野、未来型医療創成センター(INGEM)、東北大学病院兼任)、ならびにゲノム解析部門の木下 賢吾教授、齋藤 さかえ講師、三枝 大輔講師、田高 周助教、菱沼 英史助教らの研究グループは、ToMMoが公開する「日本人全ゲノムリファレンスパネル4.7KJPN」を利用して、薬物代謝酵素CYP1A2の21種類の遺伝子多型について、酵素機能に与える影響とそのメカニズムを解明した論文が、国際科学誌Journal of Personalized Medicineに掲載されました。

 CYP1A2は臨床現場で用いられる約9%の医薬品の代謝反応を触媒する重要な酵素です。これまでに、CYP1A2には多くの遺伝子多型が報告されており、特に一塩基多型に由来するアミノ酸置換型バリアントは、タンパク質の立体構造変化による著しい酵素機能の変化が、薬物動態に影響することで薬効や副作用発現の個人差の原因となることが分かっていました。したがって、CYP1A2遺伝子多型に由来するバリアント酵素の機能を詳細に解析することは、それらの特性情報に基づいた医薬品の選択や投与量設計に重要となります。

 東北メディカル・メガバンク計画による大規模な日本人集団の全ゲノム解析によって、これまで見落とされてきたCYP1A2遺伝子多型が多数同定されてきました。これらの低頻度遺伝子多型の中には、日本人集団特有の薬物体内動態変動を予測する遺伝子多型マーカーが存在する可能性があります。そこで本研究では、日本人4,773人の全ゲノム解析で新たに同定された21種類のCYP1A2遺伝子多型について、それらが薬物代謝に与える影響を遺伝子組換え酵素を作製して網羅的に機能解析しました。

 その結果、CYP1A2の遺伝子多型のうち5種類で解熱鎮痛薬フェナセチンに対する代謝活性が消失し、10種類で代謝活性が50%以下に低下することを明らかにしました。したがって、これらの多型を有する方では、もともと想定されている薬物動態とは異なる挙動を示し、医薬品の作用が強すぎたり 、副作用が起こりやすくなる可能性があります。さらに、3次元ドッキングシミュレーションモデルを利用して、酵素活性が変化する原因を分子レベルで解析しました(図)。東北メディカル・メガバンク機構の全ゲノム解析情報を活用することで、患者個々に最適な医薬品の種類や投与量を決定する安全かつ効果的な個別化医療の臨床応用実現の推進が期待されます。

 本研究は、文部科学省ならびに日本医療研究開発機構(AMED)の下記の事業により行われました。
○ゲノム創薬基盤推進研究事業
「網羅的生体情報を活用したゲノム診断・ゲノム治療に資する研究:ファーマコゲノミクスにより効果的・効率的薬剤投与を実現する基盤研究」、課題名「健常人バイオバンクを活用した薬物代謝酵素遺伝子多型バリアントの網羅的機能変化解析による薬物応答性予測パネルの構築」(JP19kk0305009)
○東北メディカル・メガバンク計画(東北大学)東日本大震災復興特別会計分(JP20km0105001)
○東北メディカル・メガバンク計画(東北大学)一般会計分(JP20km0105002)
○文部科学省先端研究基盤共用促進事業

書誌情報

タイトル:Functional Characterization of 21 Rare Allelic CYP1A2 Variants Identified in a Population of 4773 Japanese Individuals by Assessing Phenacetin O-deethylation
著者名:Masaki Kumondai, Evelyn Marie Gutiérrez Rico, Eiji Hishinuma, Yuya Nakanishi, Shuki Yamazaki, Akiko Ueda, Sakae Saito, Shu Tadaka, Kengo Kinoshita, Daisuke Saigusa, Tomoki Nakayoshi, Akifumi Oda, Noriyasu Hirasawa, Masahiro Hiratsuka
掲載誌:Journal of Personalized Medicine
掲載日:July 22, 2021
DOI:10.3390/jpm11080690

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東北大学大学院薬学研究科 生活習慣病治療薬学分野
東北大学未来型医療創成センター
東北大学病院 薬剤部