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2016.09.14

児玉栄一教授らの論文がPLoS ONE誌に掲載されました

児玉栄一教授(地域医療支援部門、災害科学国際研究所災害感染症学分野)らは、福島県立医科大学、京都大学大学院薬学研究科のグループと共同で、麻疹(はしか)*1や亜急性硬化性全脳炎(SSPE)*2の原因ウイルスである麻疹ウイルスの細胞内侵入を阻止するペプチド薬の開発に成功し、その成果をPLoS ONE誌(9月9日)に報告しました。

麻疹ウイルスは宿主細胞に吸着した後、ウイルスが細胞膜に融合するために必要な融合タンパクF2が宿主細胞膜に挿入されます。するとF2タンパクの2つの α‐へリックス構造部分が折れ曲がることによって細胞にウイルス粒子を融合させ、ウイルス遺伝子を細胞内に侵入させます。つまり、F2タンパクは、細胞を手でつかみ、肘を曲げるようにして細胞とウイルス粒子を融合させます。今回のペプチド(図1)はこのへリックス構造を模したペプチドであり、2つのへリックス構造同士の結合を阻害します。

今回開発された薬剤は、上記のSSPEタイプの麻疹ウイルスにも強い効果を発揮することを細胞レベル、そしてSSPEモデル動物でも証明しました(図2)。これまで直接的な治療薬がなかった麻疹に対する治療方法を大きく変えることにつながることが期待されます。

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図1. α‐へリックス構造の模式図(A)と用いたペプチドを示す。結合に直接関与しない面にグルタミン酸(E)とリジン(K)で置換しヘリックス構造を安定化させている。
 
 
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図2. M2EKペプチドをモデル動物の脳内に投与すると生存率が明らかに改善する。  

【用語解説】
*1 ワクチンによって国内における麻疹発生はほとんどなくなり、2015年にWHOは日本を麻疹の「排除状態」にあると認定しました。最近、報道されているようにグローバル化に伴った「海外からの麻疹」の発生が問題となっています。麻疹の大きな問題は発症者の約30%がなんらかの合併症を併発し、約40%が入院を必要としている点です。伝染力が非常に強く、かつては天然痘に並ぶ2大感染症とも呼ばれ、現在でも東南アジア、中近東、アフリカで多く発生しています。
*2 亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis、略称:SSPE):亜急性硬化性全脳炎は麻疹に感染後7~10年してから知能障害や運動障害が出現し、ゆっくりと進行する予後不良の脳炎で、麻疹に罹患した人の数万人に一人が発症するといわれています。感染性をほとんど失った変異型麻疹ウイルスの感染によると考えられています。

【掲載論文】
A Novel Peptide Derived from the Fusion Protein Heptad Repeat Inhibits Replication of Subacute Sclerosing Panencephalitis Virus In Vitro and In Vivo
邦題:融合タンパク由来のペプチドは、試験管内と動物モデルで亜急性硬化性全脳炎ウイルス(麻疹ウイルス)複製を阻害する
Masahiro Watanabe ,Koichi Hashimoto,Yusaku Abe,Eiichi N. Kodama,Ryota Nabika,Shinya Oishi,Shinichiro Ohara,Masatoki Sato,Yukihiko Kawasaki,Nobutaka Fujii,Mitsuaki Hosoya
Published: September 9, 2016
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0162823

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東北大学災害科学国際研究所・大学院医学研究科 災害感染症学分野 ウイルス・細胞研究室