未知のなかば 未知先案内人

interview

第8回 「好きなことを仕事に」 とは言うけれど

なぜ仕事を続けるのか

いや! 私だって褒められたいですよ。人間は誰でも褒められれば嬉しい。褒められたいし、成果を出して認められたい、という気持ちも当然あります。
ただ、そういう欲求は研究じゃなくても満たすことができると思うんです。
他の仕事に就いていた方が給料も高くて自分の時間もたくさん持てるのではないか、なんて思うこともありますよ。じゃあ何を好き好んで毎日毎日研究をやっているかと言えば……、やっぱり「知りたい」からでしょうか。「知りたい」という欲求が、「認められる」とか「お金が欲しい」だとか色々な欲求よりもずっと強くてそれ以外の事が後回しになってしまうんですね。
大学の時に「まだまだ解らないことが多い」という理由で生物学を選んだ、その時からたぶん変わっていない。まず「知りたい」。だから研究する。そういうことだと思います。
システム作りの合間に、いや、システム作りの中においても「知りたい」という欲求を満たすことができる、だから研究者を続けているのだと思います。続けていくためには「やりたい」「やりたくない」に関わらず、プロジェクトの中の自分の役割は当然果たさなければならないわけです。それに自分の興味のあることが一致していなければ、それとは別に自分でやればいいだけです。

なんでも好きなことをやってもいいよ、と言われたら

もしすべてのタスクやノルマがなかったら? うーん……。どういうことをやりたいか。うーん、なんですかねぇ。

網羅的というよりは、特定のものについてディープに掘り下げていく研究の方が、個人的には好きです。
いろいろな生物現象、例えば病気になるとか汗をかくとか成長するとか、そういうことの原理を突き詰めていくと、生物の中にある個々の分子がどのように働くかが明らかになり、そしてどのように働くかを突き詰めると、結局は分子の構造に行きつく、だから分子の構造が生物の根幹をつかさどる、というのが私の考え方の基本になっています。なぜこのタンパク質はこういう機能があるのか、なぜ他のタンパク質ではなくてこのタンパク質でないとその機能が発揮できないのか、そういったことを左右するのはタンパク質の構造の違いなのです。タンパク質同士が相互作用を起こすとき、どうやって作用を起こすべき特定の相手を探すかというと、相手のタンパク質の構造を見て違いを見分けているんですね。タンパク質が特定の相手を探し出して、くっついたり離れたりする、そういう一連の相互作用が起こることによって、最終的にいろんな生体反応が起こるわけです。
人が成長するのもそうですし、体を動かすのも寝たり起きたりも、食べ物を食べて消化吸収してエネルギーとして消費するのもそうです。すべての人間の機能は、生体内にある個々の分子が無差別ではなく、特定の分子と相互にそして連鎖的に作用することによって成り立っているのです。
すべてはつながっている、その前提のもとに特定の代謝物もしくはタンパク質について、分子のレベルから、それがどういう風に人間の健康や活動、いわゆる表現型に関わってくるか、垂直に見て行くような研究がしてみたいですね。

そうですね。これからもずっと代謝物やタンパク質の構造を見て行くんだと思います。きっと構造や機能を調べるっていうのが、性に合っていたのでしょうね。何でもやっていいよ、と言われたら……やっぱりタンパク質の構造を調べるんじゃないかなぁ。
好きなこととか夢中になれることとか、あんまりないと思っていたんですけど、もしかしたら……、いや、柄にもないことを言いそうになりました(笑)。

【2018年11月13日。 東北メディカル・メガバンク棟3階 ミーティングルームにて】

(プロフィール)
東京大学理学部卒業(1995年)、同大学院修了(博士(理学))。独立行政法人理化学研究所リサーチアソシエイト・研究員・上級研究員を経て、2013年4月から東北メディカル・メガバンク機構 准教授、2017年5月から生体分子解析分野教授。基盤解析事業部 副事業部長。オミックス解析室長。[2019年6月現在]

(担当:是枝幸枝)

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