お知らせ
- 2025.10.31
津波避難を促す身体的、精神的、社会経済的要因:東北メディカル・メガバンク計画に関する論文が掲載
津波避難を促す身体的、精神的、社会経済的要因を解析した論文が国際科学誌Disaster Medicine and Public Health Preparedness誌に掲載されました。
自然災害には、地震、津波、ハリケーン、洪水、火山噴火などが含まれます。これらの災害では、発生直後の健康影響に加えて、被害の程度によっては長期的な健康影響も生じる可能性があります。特に地震に伴う津波災害においては、できるだけ迅速かつ適切に避難することが極めて重要です。本研究では、東日本大震災後の津波避難に関連する要因を包括的に検討しました。
本研究は、2013年から2016年にかけて実施された東北メディカル・メガバンク計画地域住民コホート調査(宮城)のベースライン調査に参加した15,935名を対象としました。対象者には質問票を用いて、東日本大震災後の避難の有無に加え、身体的要因、精神的要因、社会経済的要因について評価を行いました。説明変数は東日本大震災後の津波避難の有無とし、目的変数として先行研究を参考に身体的、精神的、社会経済的要因を包括的に検討しました。
津波避難を促進する要因としては、女性、若年者、就労者、住宅被害が大きかった者、震災前に津波避難訓練または地震避難訓練の経験があった者、過去の地震・津波被害を家族・知人から聞いた者が挙げられました。一方で、津波避難を阻害する要因としては、高齢者、高学歴者、配偶者や同居者がいる者、犬や猫などのペットを飼っている者、身体活動量が多い者が挙げられました。
本研究では、東日本大震災後の津波避難に関連する要因を検討し、高齢者、同居者のいる世帯、およびペットを飼育している世帯における避難プロセスを強化する必要があることが示されました。また、避難訓練の実施や、家族・知人等と防災に関する話し合いの重要性も示唆されました。
地震後の津波被害を防ぐためには、本研究で示された修正可能な要因に対して適切に対応することが重要と考えられます。一方で、高齢化の進行に伴い、身体的・精神的要因や家族の事情などにより避難が困難となる人々の増加が懸念されます。津波発生時に即時の避難が難しい人々にとっては、津波被害を受けにくい安全な地域に居住することも、脅威を回避するための重要な選択肢の一つと考えられます。
書誌情報
タイトル:Physical, mental, and socioeconomic factors that promote tsunami evacuation: A Tohoku Medical Megabank Project
著者名:Naoki Nakaya, Nakajima Ryuto, Kumi Nakaya, Rieko Hatanaka, Mana Kogure, Ippei Chiba, Sayuri Tokioka, Masato Takase, Shinichi Kuriyama, Atsushi Hozawa
掲載誌:Disaster Medicine and Public Health Preparedness
掲載日:2025/10/30
DOI:10.1017/dmp.2025.10242