お知らせ
- 2025.07.22
IgE抗体の産生能力に関わる遺伝的な素因と小児のアレルギー疾患リスクとの関連についての論文が掲載
予防医学・疫学部門の栗山 進一教授らが参画したと岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構(IMM)との共同研究による、IgE抗体の産生能力に関わる遺伝的な素因と小児のアレルギー疾患リスクとの関連についての論文が、米国人類遺伝学会の専門誌The American Journal of Human Genetics誌に掲載されました。
アレルギー疾患は、免疫系が身のまわりの特定の物質に過敏に反応することによって起きる疾患です。発症のしやすさには個人差があり、似たような環境で暮らしている子どもたちの中にも、発症しやすい子どもと発症しにくい子どもが存在します。これは、子どもの持って生まれた体質(遺伝的な素因)が影響しているためと考えられています。アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎、喘息、食物アレルギーなどのアレルギー疾患の発症には、IgEと呼ばれる種類の抗体が関わっています。血液中のIgE濃度にも個人差がありますが、ToMMoが中心となって行われた過去の研究で、IgE濃度の個人差に影響を与える遺伝子がすでに複数見つかっていました。
今回、研究グループでは、上記の過去の研究で見出されたIgE濃度に影響を与える遺伝子が、実際にアレルギー疾患の発症リスクに影響を与えている可能性を考え、解析を進めました。解析の対象として三世代コホート調査が収集した小児データを使用しました。それぞれの子どもが保有する、IgE濃度に影響を与える遺伝子の影響力を表す方法として、IMMが研究を進めてきたポリジェニック・スコア(PGS)法*を使用しました。
その結果、PGSの値が高い(全体の上位20%)子どもは、中程度か低い(下位60%)子どもたちに比べて、生まれてから2歳程度までの間、食物アレルギーのリスクが約1.5倍、アトピー性皮膚炎のリスクが約1.3倍高いことが示されました。また、食物アレルギーとアトピー性皮膚炎の両方を発生するリスクも、約1.9倍高くなっていました。
現在のところ、アレルギー疾患になりやすい子どもは実際に発症するようになってから見分けることしかできず、事前に行うことのできる対処は限られています。今回の方法は、症状が出る前に、リスクの高い子どもを見分けることを可能にするため、発症前から使える予防法や治療法を開発するための糸口になると期待されます。
※岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構(IMM)のウェブサイトでさらなる詳細をご覧いただけます。
用語説明
ポリジェニック・スコア(PGS)法:ポリジェニックリスクスコア(PRS; Polygenic Risk Score)とも呼ばれます。ある疾患のリスクと多型との関係をあらかじめ調べておき、その関係性の強さに応じて、それぞれの多型に得点を割り振っておきます。ある⼈の遺伝情報を調べた際、疾患と関係のある多型が⾒つかるごとに割り振られた得点を加算し、最終的な個⼈ごとの得点を出します。この得点がPGSです。計算に⽤いる多型は⼀⼈当たり数百万箇所にのぼることもあり、多くの場合、計算にはスーパーコンピュータ等の⼤型計算機が必要になります。
書誌情報
タイトル:Genetic predisposition for immunoglobulin E production explains atopic risk in children: Tohoku Medical Megabank cohort study
著者:Yoichi Sutoh, Tsuyoshi Hachiya, Yayoi Otsuka-Yamasaki, Shohei Komaki, Shiori Minabe, Hideki Ohmomo, Kozo Tanno, Atsushi Hozawa, Naoki Nakaya, Aoi Noda, Masatsugu Orui, Mami Ishikuro, Taku Obara, Shinichi Kuriyama, Makoto Sasaki, Atsushi Shimizu
掲載誌:The American Journal of Human Genetics
掲載日:2025年7月21日
DOI:10.1016/j.ajhg.2025.06.015