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- 2025.06.10
心血管健康の悪化と社会的孤立が重なると様々な産科合併症のリスクが増加する可能性─ 三世代コホート調査1万4,900例で実証
妊婦の心血管健康(CVH)状態と社会的孤立の有無が相乗的に関連し、妊娠高血圧腎症や早産などの「不良な妊娠転帰(Adverse Pregnancy Outcomes: APOs)」のリスクを高める─東北メディカル・メガバンク計画三世代コホート調査に参加された14,930名を対象とした大規模解析が、国際科学誌 Scientific Reports に掲載されました。
APOsは約5人に1人の妊婦に発生し増加傾向にあります。循環器疾患予防を目的に米国心臓協会が提唱した「Life’s Essential 8」は、食事・運動・睡眠・肥満など8項目から総合的にCVHを評価する指標で、若年層や妊婦にも応用が期待されています。一方で、社会的孤立も妊婦の健康を脅かすリスク因子とされていますが、CVHと社会的孤立の“重なり”がAPOsに与える影響については、これまで十分に検証されていませんでした。
本研究では、東北メディカル・メガバンク計画の三世代コホート調査に参加している妊婦14,930名を対象としました。APOsは妊娠高血圧腎症、妊娠糖尿病、早産、在胎週数相当より小さい児(small for gestational age)の出産のいずれかと定義しました。「Life’s Essential 8」により評価されたCVHスコアに応じて、対象者をCHVが良好な順に3群(高, 中, 低)に分類しました。さらに質問紙「the Lubben Social Network Scale」により評価された社会的孤立の有無と組み合わせて、APOsとの関連を検討しました。
APOsの発生率は低CVH群では29.9%と最も高く、高CVH群では13.1%と最も低い結果でした。高CVH群を基準としたCVHの相対リスクは、中CVH群で1.15(95%信頼区間: 1.03–1.28)、低CVH群で2.14(1.78–2.58)でした。さらに、社会的孤立との相互作用を分析したところ、低CVHかつ孤立ありの妊婦ではAPOsの発生率が36.4%で、孤立なしの低CVH群(27.4%)より高くなりました。一方で高CVH群では、孤立の有無による差はわずかであり(13.6% vs. 13.1%)、CVHの良好さが社会的孤立の影響を打ち消す可能性が考えられます。
CVHと社会的孤立は、いずれもAPOsに関与する因子であり、両者が重なることでリスクが増大する可能性が示されました。今後、妊婦健診の現場においてCVHと社会的孤立の両方を評価することにより、早期介入や個別支援が可能となることが期待されます。
書籍情報
タイトル:Synergistic effects of cardiovascular health and social isolation on adverse pregnancy outcomes
著者名:Hisashi Ohseto, Mami Ishikuro, Geng Chen, Ippei Takahashi, Genki Shinoda, Aoi Noda, Keiko Murakami, Masatsugu Orui, Noriyuki Iwama, Masahiro Kikuya, Hirohito Metoki, Atsushi Hozawa, Taku Obara & Shinichi Kuriyama
掲載誌:Scientific Reports
掲載日:2025年5月29日
DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-025-03652-x