お知らせ

記事一覧
全て
ニュース
成果
プレスリリース
イベント
2025.01.15

東日本大震災による家屋被害の程度と死亡リスクの関連 ―地域住民コホート調査における宮城・岩手の6万人規模の統合データ解析―【プレスリリース】

発表のポイント

・ 東北メディカル・メガバンク計画地域住民コホート調査を用いて、東日本大震災による家屋被害の程度と死亡リスクの関連を、宮城県と岩手県の約6万人の対象者に対する平均6.5年間の追跡により検討しました。

・ 家屋被害の程度と死亡リスクの間に統計学的に有意な関連は示されませんでした。

・ さらなる長期の追跡調査が必要ですが、東日本大震災後の公衆衛生の取り組みが死亡リスクの増加を抑制した可能性があると考えられます。

概要

大規模自然災害による家屋の被害は、長期的なストレス反応によって致死的な結果を引き起こす可能性があります。東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)の中谷 直樹教授、岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構(IMM)の丹野 高三部門長らによる研究グループは、東北メディカル・メガバンク計画地域住民コホート調査において、宮城県と岩手県で収集したデータを用いて、東日本大震災による家屋被害の程度と死亡リスクの関連を平均追跡期間6.5年間のコホート研究により検討しました。

家屋被害の程度のデータには2013年~2016年のベースライン調査における調査票で「被災地に住んでいない」「被害なし」「一部損壊」「半壊」「大規模半壊」「全壊[全流失]」のうち対象者が選択した項目を用いました。死亡データには、対象者の同意に基づき確認できた2021年12月までの1,763例を用いました。

その結果、被害なし群(基準)に比し、被災地に住んでいない者の死亡リスク(95%信頼区間)は0.96(0.82-1.13)、小・中規模被害群(一部損壊、半壊)で0.98(0.87-1.10)、大規模被害群(全壊[全流失]、大規模半壊)で0.98(0.85-1.14)で、家屋被害の程度と死亡リスクの間で統計学的に有意な関連は示されませんでした。本研究の範囲では確定的なことは言えませんが、震災後のさまざまな公衆衛生の取り組みが一定の成果を上げた可能性があります。

この論文は国際学術誌Journal of Epidemiology and Community Health誌に2025 年1月15日にオンライン掲載されました。

東日本大震災による家屋損壊の程度と生存率(Kaplan-Meier曲線) 横軸の観察期間(年)は、個人ごとにベースライン調査実施日(同意日)から最終生存確認日(同意撤回日、異動日、死亡日、最終追跡確認日[2021年1月31日])を差し引いて年単位として算出した。なお、「1 被災地に居住していない」で生存率が低く見えるが、多変量モデルでの解析では有意な結果は示されなかった。

プレスリリース本文

2025年1月31日追記
本研究には以下のような研究の限界がありますので、解釈には注意が必要です。
• 東日本大震災後直後から調査参加までに亡くなった方のデータは含まれていません。したがって、家屋被害の程度が大きい方で震災後間もなく亡くなった方がいた場合には本研究結果が過小評価されている可能性があります。
• 2013年から2016年に実施したベースライン調査において、家屋被害の程度の評価は自己申告のため、家屋被害の程度の評価には限界があります。
• 岩手と宮城では死亡確認方法が異なります。しかし、家屋被害の程度と死亡リスクの関連について、岩手と宮城の結果の交互作用は示されず、死亡確認方法の違いによる影響は見られませんでした。
• ベースライン調査時に評価した変数(居住状況など)は追跡中に変化した可能性がありますが、それらは考慮できませんでした。
• 本調査に(自発的に)参加した方は一般地域住民の中でもより健康的な方が多いと推定されるため、宮城・岩手の被災地全体の結果として一般化できるかは不明です。

論文情報

タイトル:Degree of housing damage caused by the Great East Japan Earthquake and all-cause mortality in the community-based cohort study of the Tohoku Medical Megabank Project
著者:Naoki Nakaya*, Kumi Nakaya, Mana Kogure, Yuka Kotozaki, Rieko Hatanaka, Ippei Chiba, Sayuri Tokioka, Masato Takase, Satoshi Nagaie, Hideki Ohmomo, Takahito Nasu, Nobuo Fuse, Kozo Tanno, Atsushi Hozawa
*責任著者:東北大学東北メディカル・メガバンク機構 教授 中谷直樹
掲載誌:Journal of Epidemiology and Community Health
DOI:10.1136/jech-2024-223084