お知らせ
産後うつの生じ易さを左右する遺伝子座を特定【プレスリリース】
発表のポイント
・産後うつについてゲノムワイド関連解析(GWAS)を行い、8つの遺伝子座が有意に相関することを特定しました。
・本解析では、出産回数、および、同居する家族の人数を最も影響の大きい因子と特定し、年齢とともに、この2つの要因を交絡因子としました。
・これらの遺伝子座は、うつ病、双極症、統合失調症、注意欠如・多動症、自閉スペクトラム症などの精神疾患との関連が報告されており、産後うつの罹患リスクと他の精神疾患の罹患リスクとの共通性が示唆されました。
・これらの知見は、産後うつの病因解明を進める上で有力な手掛かりとなることが期待されます。
概要
日本では約15%の妊産婦が産後うつの状態を呈すると試算されます。しかし、その高い有病率と母子に及ぼす深刻な影響にもかかわらず、その基盤となる生物学的特性についてはほとんど知られていません。近年、うつ病をはじめとする様々な精神疾患の罹患感受性に関連する遺伝子座が報告されていますが、産後うつと有意に関連する遺伝子座を同定した研究はありませんでした。
東北大学と名古屋大学の研究グループは、東北メディカル・メガバンク計画による三世代コホート調査および名古屋大学において登録された周産期女性を調査対象として、産後うつに関連する遺伝子座を明らかにするためのGWASを実施しました。まず、産後うつのGWASに最も影響の大きい交絡因子として、出産回数、および、同居する家族の人数を特定しました。基本的属性である年齢とともに、この2つの要因を交絡因子として調整した上で、産後うつに相関するゲノム多型を特定するためのGWASを実施しました。その結果、産後うつに有意に相関する8つの遺伝子座を特定しました。これらの遺伝子座は、他の精神疾患との関連が報告されており、産後うつの罹患リスクと他の精神疾患の罹患リスクの共通性が示唆されました。
これらの知見は、今後、産後うつの病因解明を進める上で有力な手掛かりとなり、産後うつのリスク評価に基づいた対策の検討にも繋がることが期待されます。
本成果は2024年9月18日(日本時間)に精神医学分野の専門誌 Psychiatry and Clinical Neurosciences に掲載されました。
論文情報
タイトル:Identification of risk loci for postpartum depression in a genome-wide association study
(ゲノムワイド相関解析による産後うつ病の罹患感受性遺伝子座の同定)
著者:李 雪, 高橋 長秀, 成田 暁, 中村 由嘉子, 櫻井 美佳, 村上 慶子, 石黒 真美, 小原 拓, 菊谷 昌浩, 上野 史彦, 目時 弘仁, 大瀬戸 恒志, 高橋 一平, 中村 智洋, 割田 紀子, 庄子 朋香, 兪 志前, 小野 千晶, 小林 奈津子, 菊地 紗耶, 松木 佑, 長神 風二, 荻島 創一, 菅原 準一, 星合 哲郎, 齋藤 昌利, 布施 昇男, 木下 賢吾, 山本 雅之, 八重樫 伸生, 尾崎 紀夫, 田宮 元, 栗山 進一, 富田 博秋
責任著者:東北大学大学院医学系研究科(東北大学東北メディカル・メガバンク機構兼務) 教授 富田 博秋
掲載誌:Psychiatry and Clinical Neurosciences
DOI:10.1111/pcn.13731