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2024.04.19

食道扁平上皮がんにおいて生体防御遺伝子が高頻度に変異する原因を解明【プレスリリース】

発表のポイント

・食道扁平上皮がんで、生体防御因子である遺伝子NRF2が高頻度に変異し、がん細胞の増殖を活性化する仕組みを明らかにしました。

・NRF2を異常に活性化する2つの遺伝子変異のうち、NRF2変異は食道扁平上皮細胞の生存に、より有利であることがわかりました。

・本研究では、NRF2が活性化した食道扁平上皮がんモデルマウスの作出にも成功しました。今後、同モデルマウスの新規治療薬開発へ向けた応用が進むものと期待されます。

概要

NRF2は様々な環境由来ストレスから私たちの体を守る生体防御因子であり、KEAP1はそれらのストレスを感知してNRF2を活性化するセンサーです。一方、がん細胞はこれらの因子に体細胞変異を起こしてNRF2を活性化させ、自らの増殖を活性化します。がん細胞においてNRF2が過剰に活性化すると、抗がん剤や放射線治療に対して強い抵抗性を持つようになり、予後の悪いがんになります。特に、食道扁平上皮がんではNRF2の異常な活性化を誘導する遺伝子変異が高い頻度で発生し悪性化しやすいため、NRF2が活性化した食道扁平上皮がんに対する有効な治療法の開発が望まれています。

東北大学大学院医学系研究科の高橋洵大学院生、同大学東北メディカル・メガバンク機構の鈴木隆史准教授、山本雅之教授、および大学院医学系研究科の亀井尚教授、筑波大学医学医療系の高橋智教授らは、NRF2の異常な活性化を誘導する遺伝子改変マウスであるKEAP1変異マウスとNRF2変異マウスを作出し、両者の比較を行いました。その結果、NRF2遺伝子変異は、KEAP1遺伝子変異に比較して、食道扁平上皮細胞の生存に有利な変異であること、そのために食道扁平上皮細胞のがん化に大きく寄与することを明らかにしました。また、NRF2遺伝子変異とがん抑制遺伝子であるTrp53遺伝子変異をマウスの扁平上皮細胞に同時発生させることで、NRF2活性化食道扁平上皮がんのモデルマウスの作成に成功しました。

この成果は米国時間2024年4月10日に科学誌Cell Reportsのオンライン版で公開されました。

図1. NRF2変異とKEAP1変異は扁平上皮細胞の運命に異なる影響がある NRF2変異マウス(Nrf2L30F/L30F::K5CreERT2)の食道上皮に発生したNRF2活性化扁平上皮細胞(NQO1+)は生存可能であるが、KEAP1変異マウス(Keap1flox/flox::K5CreERT2)の食道上皮に発生したNRF2活性化扁平上皮細胞(NQO1+)は時間と共に消失する。上図は、マウス食道の断面図を示す。Nrf2L30F/L30F::K5CreERT2およびKeap1flox/flox::K5CreERT2いずれの場合も、NRF2活性化を誘導して1週間後(1wk)ではNQO1+細胞(茶色)が確認されるが、4週間後(4wk)および8週間後(8wk)になると、Nrf2L30F/L30F::K5CreERT2ではNQO1+細胞が生存しているのに対して、Keap1flox/flox::K5CreERT2ではNQO1+細胞が消失している。右グラフは、NQO1+細胞の面積を示している。下図は、NRF2変異とKEAP1変異はいずれもNRF2活性化を引き起こすが、扁平上皮細胞の運命に異なる影響を及ぼす様子を模式化している。

 

プレスリリース本文

論文情報

タイトル:Differential squamous cell fates elicited by NRF2 gain-of-function versus KEAP1 loss-of-function
「NRF2の機能獲得変異とKEAP1の機能喪失変異によって引き起こされる扁平上皮細胞の異なる運命」

著者:
東北大学 東北メディカル・メガバンク機構 分子医化学分野/東北大学大学院 医学系研究科 消化器外科学分野
高橋洵
東北大学 東北メディカル・メガバンク機構 分子医化学分野
鈴木隆史*、佐藤美羽、新田修司、矢口菜穂子、牟田達紀、土田恒平、須田博美、守田匡伸、山本雅之*
東北大学大学院 医学系研究科 消化器外科学分野
亀井尚
東北大学大学院 医学系研究科 消化器病態学分野
濱田晋、正宗淳
筑波大学 医学医療系/トランスボーダー医学研究センター
高橋智
*責任著者:東北メディカル・メガバンク機構・分子医化学分野 教授 山本雅之、医学系研究科/東北メディカル・メガバンク機構・分子医化学分野 准教授 鈴木隆史

掲載誌:Cell Reports

DOI: 10.1016/j.celrep.2024.114104