お知らせ

記事一覧
全て
ニュース
成果
プレスリリース
イベント
2024.01.24

母乳に含まれるニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)が子どもの精神発達と関連する重要な栄養成分であることを判明 ~国際学術誌Nutrientsに掲載~

ToMMoは、明治ホールディングス株式会社(代表取締役社長:川村 和夫)、株式会社 明治(代表取締役社長:松田 克也)との共同研究により、母乳に含まれる成分ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)※1の濃度が、その母乳で育った子ども(児)の精神発達と関連する重要な栄養成分であることを明らかにし、国際学術誌Nutrientsに掲載されました。
(Nutrients 2024, 16, 145, https://doi.org/10.3390/nu16010145

研究成果概要

① 母乳中に含まれるビタミンであるナイアシンとその関連物質を定量した結果、NMNが最も多く含まれていることが分かりました。

② 母乳中ナイアシン関連物質の中で、NMNが児の精神神経発達指数と関連することを明らかにしました。

研究背景と今後の活用

いわゆる「人生最初の1000日」とよばれる胎生期から2歳までの期間に適切な栄養を摂ることは、神経発達にとって極めて重要であることが知られていますが、具体的にどのような栄養成分が神経発達と関連しているのかについてはまだ十分に分かっていません。今回、東北メディカル・メガバンク機構の三世代コホート調査※2で採取した母乳試料を用いて、ナイアシン※3とよばれるビタミンの一種に関連する複数の成分の濃度を測定し、児の神経発達指標との関連を解析しました。その結果、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)という成分の濃度が、2歳時点での精神神経発達指数(ASQ-3スコア)※4と正の相関を示すことが分かりました。
本研究ではバイオバンクの母乳試料を用いてナイアシン関連化合物を測定し、児の精神神経発達と関連する成分の一つとしてNMNを見出すことができました。今回得られた結果は、乳幼児のより良い成長・発達に役立つ知見となることが期待されます。

発表の内容
タイトル

Effect of Nicotinamide Mononucleotide Concentration in Human Milk on Neurodevelopmental Outcome: The Tohoku Medical Megabank Project Birth and Three-Generation Cohort Study

発表者

Saito, Y. 1, Sato, K.2, Jinno, S.2, Nakamura, Y.2, Nobukuni, T.3, Ogishima, S.3, Mizuno, S.3, Koshiba, S.3, Kuriyama, S.3, Ohneda, K.3, Morifuji, M.1
1 明治ホールディングス株式会社
2 株式会社 明治
3 東北大学 東北メディカル・メガバンク機構

背景

いわゆる「人生最初の1000日」とよばれる胎生期から2歳までの期間に適切な栄養を摂ることは、神経発達にとって極めて重要であることが知られていますが、具体的にどのような栄養成分が神経発達と関連しているのかについては十分に分かっていません。そこで、母乳中の栄養成分であるナイアシン関連化合物と乳児の神経発達との関連性を解析しました。

方法

東北メディカル・メガバンク機構の三世代コホート調査に参加された母乳栄養児とその母親150組を無作為に抽出しました。母乳栄養児は出生から6カ月以上の間、母乳のみで育てられた乳児を指します。母乳栄養児の母親から産後1カ月に採取された母乳を活用し、母乳中のナイアシン関連化合物であるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)、ニコチンアミド(NAM)、ニコチンアミドリボシド(NR)、ニコチン酸(NA)の各成分をHPLC-MS/MS※5により測定しました。このうち、NAD、NMN、NAMの3成分について、母乳栄養児の6カ月、1歳、2歳の各時点での精神神経発達指数(ASQ-3スコア)との関連を順序ロジスティック回帰分析※6により解析しました。その際に、母親の関連情報として、在胎週数・家計所得・就業期間・妊娠中のアルコール摂取の有無・子の数を考慮しました。

結果

母乳中のナイアシン関連化合物の濃度は、NMNが最も高値であること(中央値:9.2 μM)が明らかになりました。さらに、前述の関連情報を考慮した回帰分析では、2歳時に実施したASQ-3スコアの5つの領域(コミュニケーション、粗大運動、微細運動、問題解決、個人・社会)全てのスコア値と母乳中のNMNの濃度が正の相関を示しました。

考察・結論

本研究ではバイオバンクの母乳試料を用いて生体内の微量成分であるナイアシン関連化合物を測定し、児の精神神経発達と関連する成分の一つとしてNMNを見出すことができました。今回得られた結果は、乳幼児のより良い成長・発達に役立つ知見となることが期待されます。

図1 母乳中のナイアシン関連化合物の濃度
バー:中央値
出典: SaitoらNutrients 2024, 16, 145.の図2を改変

 

  共通オッズ比 (95% 信頼区間)※7 Q値  
NAD      
 コミュニケーション 1.28 (0.95, 1.71) 0.170  
 粗大運動 1.40 (1.02, 1.93) 0.088  
 微細運動 1.13 (0.86, 1.48) 0.474  
 問題解決 1.25 (0.94, 1.67) 0.191  
 個人・社会 1.28 (0.95, 1.72) 0.170  
NMN      
 コミュニケーション 1.15 (1.04, 1.28) 0.024 *
 粗大運動 1.16 (1.04, 1.29) 0.024 *
 微細運動 1.14 (1.04, 1.24) 0.024 *
 問題解決 1.18 (1.07, 1.30) 0.008 *
 個人・社会 1.21 (1.09, 1.34) 0.004 *
NAM      
 コミュニケーション 1.00 (0.86, 1.17) 0.952  
 粗大運動 0.92 (0.78, 1.08) 0.404  
 微細運動 1.01 (0.87, 1.16) 0.952  
 問題解決 0.96 (0.83, 1.10) 0.629  
 個人・社会 0.85 (0.72, 0.99) 0.092  

表1 順序ロジスティック解析による母乳中のナイアシン関連化合物と2歳時点の精神神経発達指数(ASQ-3スコア)との関連性解析
* Q値<0.05 有意に関連性あり
出典: SaitoらNutrients 2024, 16, 145.の表4を改変

※1 ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)の前駆体であり、NAD+の生成を促進することで細胞のエネルギー生産や代謝活性をサポートします。
※2 東北大学が実施している長期健康調査の一つで、主に宮城県の7万人以上の方にご協力いただいています。この調査は、世界初の三世代の家系情報付きの出生コホート調査であり、世界最大規模の三世代のコホート調査でもあります。この調査は、一人一人の体質と生活習慣や環境がどのように病気と関連するかを調べ、病気の原因を明らかにし、体質を考慮した最適な病気の予防法や治療法を開発する基盤を作るために行われています。
※3 ビタミンB群の一種で、体内で脂質、アミノ酸の代謝をサポートするほか、酸化還元反応に関わる補酵素としての役割を有しています。鶏むね肉、豚肉、さんま、ぶり、たらこなどに多く含まれます。
※4 Age & Stages Questionnaires®, Third Edition (乳幼児発達検査スクリーニング質問紙)。生後1カ月から5歳半の子どもの発達遅延をスクリーニングするための質問紙です。5つの発達領域(コミュニケーション、粗大運動、微細運動、問題解決、個人・社会)について親が回答することで子どもの発達を評価します。各領域の評価は6つの質問で構成されており、5点刻みの0 ~ 60の13段階の得点で表されます。
※5 高速液体クロマトグラフィー(HPLC)と質量分析法(MS)を組み合わせた分析手法です。HPLCは、物質
を分離するための技術であり、MSは、分子量を測定する技術です。 HPLC-MS/MSは、分離された物質を
質量分析することで、物質の同定や定量ができるようになります。
※6 多変量データにおいて、目的変数が3分類以上の順序変数である場合に用いられる回帰分析手法です。例えば、一人一人の体質や生活習慣、環境がどのように病気と関連するかを調べ、病気の原因を明らかにし、体質を考慮した最適な病気の予防法や治療法を開発する基盤を作るために行われます。
※7 ある事象(本研究では、精神神経発達指数のスコアが1段階あがる、オッズ比は各段階で一定とみなす)の起こりやすさを示す統計学的な尺度(共通オッズ比)、母集団の真の平均を含むと95%の確信が持てる値の範囲を示します(95%信頼区間)。