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2020.11.17

TMMバイオバンクの細胞試料の有用性を示す論文を発表

バイオバンク部門石田典子助教らは、東北メディカル・メガバンク計画(TMM)バイオバンクで樹立・保存されたヒトリンパ芽球様細胞株(LCL; lymphoblastoid cell line)が酸化ストレスおよび炎症ストレスに対する応答性を調べるツールとして有用であることを報告しました。

ヒトLCLは疾患の機能解析に有用な血液由来の細胞であり、TMMバイオバンクでは4,200人分以上の細胞を樹立・保存しています。LCLは培養して増やすことが可能で、より多くの研究者に分譲が可能です。
酸化ストレスや炎症性ストレスは、様々な疾患の発症と進行に重要な役割を果たしていることが知られていますが、これらのストレスに対する、バイオバンクで大規模に樹立されたLCLの応答性については報告がありませんでした。
本研究では、TMMバイオバンクで保存される11人分のLCLを、酸化ストレス誘導剤(マレイン酸ジエチル)と炎症ストレス誘導剤(リポ多糖)、またはその両方で処理し、各ストレスが遺伝子発現に与える影響をRNAシークエンス法にて解析しました。また、酸化ストレス応答の鍵因子である転写因子NRF2のゲノムへの結合状態も調べました。それらの結果、(1) 酸化ストレス処理した細胞では、NRF2の標的遺伝子を含む2,000以上の遺伝子の発現が誘導され、(2) 炎症ストレス処理した細胞では、炎症関連遺伝子を含む約300の遺伝子の発現が誘導されました。さらに、(3) 炎症ストレス誘導遺伝子のうち、炎症応答遺伝子群は酸化ストレスにより抑制され、逆に、(4) 酸化ストレス誘導遺伝子の一部は炎症ストレスによって抑制されることがわかり、酸化ストレスと炎症性ストレスを介した経路間の相互干渉が示唆されました(図参照)。

これらのデータは、TMMバイオバンクで保管されているLCLが酸化ストレスや炎症性ストレスに対する応答経路を保持しており、TMMバイオバンクから研究者へのLCL提供が有用であることを示しており、今後の試料分譲によるLCLを用いた機能解析が期待されます。
本研究成果は、2020年12月に米科学誌Free Radical Biology and Medicine誌に掲載されます(2020年10月2日オンライン掲載)。

図:TMMバイオバンクのLCLにおける、酸化ストレスおよび炎症ストレスに対する応答性を検出

 

書誌情報

タイトル:Landscape of electrophilic and inflammatory stress-mediated gene regulation in human lymphoblastoid cell lines
著者名:Noriko Ishida, Yuichi Aoki, Fumiki Katsuoka, Ichiko Nishijima, Takahiro Nobukuni, Hayato Anzawa, Li Bin, Miyuki Tsuda, Kazuki Kumada, Hisaaki Kudo, Takahiro Terakawa, Akihito Otsuki, Kengo Kinoshita, Riu Yamashita, Naoko Minegishi, Masayuki Yamamoto
掲載誌:Free Radical Biology and Medicine
DOI: 10.1016/j.freeradbiomed.2020.09.023
Available online 2 October 2020.