お知らせ
- 2026.10.29
ToMMoが参画した認知症に関する国際メタGWASの研究成果がNature誌に掲載されました
当機構の小嶋 崇史 非常勤講師、成田 暁 非常勤講師(研究当時 助教)、田宮 元 教授らが参画する国際研究グループは、多様な民族集団を対象とした認知症の大規模なゲノムワイド関連解析(GWAS※1)を実施し、その研究成果が国際科学誌Natureに掲載されました。
Psychiatric Genomics Consortiumの認知症ワーキンググループ(PGC-ALZ)は、世界各国の30コホート・バイオバンクから集めた、認知症患者109,479人、家族歴に基づく代理症例※2 74,141人を含む約280万人のデータを統合し、過去最大規模となる認知症のGWASを実施しました。 その結果、認知症の発症リスクに関わるゲノム上の127領域を同定し、そのうち48領域は新たに見出されたものでした。また、脳内の免疫細胞であるミクログリアや特定の神経細胞が遺伝的リスクに関与していることや、遺伝的多型で説明されるSNP遺伝率※3が従来の推定値の約3倍にあたる約16%であることが示されました。本研究の成果は、認知症の発症に関わる生物学的な仕組みの理解を深め、新たな治療標的の探索につながることが期待されます。
詳細
認知症は高齢化社会における医療・介護負担といった観点で重大な疾患であり、世界の認知症患者数は2050年には1億5千万人を超えると予測されています。双生児研究から認知症は遺伝の影響が大きい疾患(遺伝率60~80%)であることが知られていますが、GWASから推定される遺伝率は約5%と低かったことから、遺伝的多型の探索からさらに見出せるものは少ないのではないかとの指摘もありました。
本研究では、ヨーロッパ系、アフリカ系、東アジア系、アメリカ大陸の混合系、南アジア系の5つの民族集団を含む30のコホート・バイオバンクのデータ(患者109,479人、代理症例74,141人、対照2,131,799人、代理対照499,708人)を統合し、GWASメタ解析を実施しました。
本研究において認知症との関連が同定された遺伝子には、アミロイドの代謝、ミクログリアの活性化や免疫細胞の動員、アストロサイトの活性化、神経線維を覆う髄鞘の維持などに関わるものが含まれており、新たに同定された遺伝子の中からは、QPCT、SYK、KEAP1などの創薬標的候補も示されました。さらに、患者の脳でミクログリアにおいて発現が上昇する遺伝子群と、特定の種類の神経細胞(Sncg発現神経細胞、ソマトスタチン発現抑制性介在神経細胞、大脳皮質第6層の皮質内投射神経細胞)において発現が低下する遺伝子群に、認知症の遺伝的リスクに関連するシグナルが集積していることが明らかになりました。
また、APOE遺伝子の非常に大きな効果を適切に考慮できる統計手法を用いることで、SNP遺伝率は約16%と、従来の推定値(約5%)のおよそ3倍であると推定されました。本研究の結果から構築したポリジェニックスコア※4により、従来よりも高い精度で遺伝的リスクを予測できることも示されました。
東北メディカル・メガバンク計画では、参加者約6万人のゲノム情報と調査票の情報を用いた解析を担当しました。調査票でご回答いただいたご両親の認知症の有無をもとに、父親または母親が認知症である方(6,445人)を代理症例、両親ともに認知症でない方(53,918人)を対照とする代理表現型GWASを実施し、その結果を国際メタ解析に提供しました。本研究に含まれる東アジア系集団の代理症例・代理対照は、すべて東北メディカル・メガバンク計画のデータによるものです。
これまでのGWASはヨーロッパ系集団を対象としたものが大半であり、本研究においても解析対象の約9割はヨーロッパ系集団でした。そのため、ヨーロッパ系以外の民族集団における遺伝的効果の推定や遺伝的リスク予測の精度には限界があり、論文の中でも「ヨーロッパ系以外の民族集団の参加者をより多く含めた今後の研究が、認知症のゲノム研究における公平性の向上に不可欠である」と述べられています。東北メディカル・メガバンク計画のデータは、日本人集団を含む東アジア系集団の知見をこうした国際共同研究に反映させ、将来的な日本における個別化医療を推進する上で重要な役割を果たしています。また、本研究の解析結果(要約統計量)は公開されており、世界の研究者による今後の研究への活用が期待されます。
書誌情報
タイトル:Alzheimer’s disease genetics converges on microglial and neuronal dysregulation
著者:Emil Uffelmann, Douglas P. Wightman, Shahram Bahrami, Alexey A. Shadrin, Vera Fominykh, Takafumi Ojima et al.(当機構からの共著者:Takafumi Ojima, Akira Narita, Gen Tamiya, Masayuki Yamamoto)
掲載誌:Nature
掲載日:2026年10月28日
DOI:10.1038/s41586-026-11206-y
用語解説
※1 ゲノムワイド関連解析(GWAS)
ゲノム全体に分布する数千万か所の遺伝的な個人差(多型)について、疾患との関連を網羅的に調べる統計解析手法。
※2 代理症例
本人ではなく親が認知症であると回答した人を、遺伝的リスクを一部共有する「代理」の症例として解析に用いる手法。参加者が比較的若く、本人がまだ発症年齢に達していないことが多いコホートでも、家族歴の情報を活用することで解析の規模を確保できる。
※3 SNP遺伝率
疾患のかかりやすさの個人差のうち、ゲノム上のありふれた遺伝的多型(SNP)によって説明できる割合。
※4 ポリジェニックスコア
ヒトゲノム配列上に存在する遺伝子多型のうち、疾患との関連が示唆された数十〜数十万の遺伝子多型について、効果量の和を個人ごとに計算したスコア。このスコアは実際の疾患発症リスクと相関することが示されており、スコアを計算することで疾患にかかりやすい遺伝的体質かどうか調べることができる。
