お知らせ
日本人小児唾液エピゲノムリファレンスを公開 ―思春期前の発達や疾患研究に役立つ世界初のリソース
発表のポイント
・基礎疾患のない日本人の子ども男女約1,000人を対象に、唾液由来のDNAメチル化*1データを整備しました。
0〜10歳の各年齢・性別ごとの統計値(平均値と標準偏差)を算出し、データベース iMETHYL*2 および jMorp*3 に公開しました。
・唾液は非侵襲的*4に採取できるため、参加者の負担が極めて少ない生体試料です。その特性から特に小児を対象とした研究において、DNAの取得方法として採血に代わり多く採用されています。
・小児の身体的発達や生活習慣、アレルギーや神経発達症、代謝疾患、さらには性差に関する研究が世界的に進められていますが、比較対象となる基礎疾患のない小児集団のデータは多くありません。本データはこうした研究を行う際の貴重な参照データとして広く活用が期待されます。
概要
・小児は心身の発達や生活習慣の形成が著しく、この時期の経験や環境要因は将来の健康や疾患リスクに大きく影響するとされています。思春期以降は特にアレルギー疾患、神経発達関連の問題、代謝疾患などが現れやすく、生涯の健康リスクにおいて重要なライフステージです。
・DNAメチル化をはじめとするエピゲノム変化*5は、生活習慣や環境の影響を反映し、健康状態の背景を理解するための重要な手がかりになるとされ、世界的に研究が進められています。一方で、エピゲノムの状態は遺伝的背景*6の影響も受ける可能性があるため、日本人集団に基づく参照値を整備することが、本邦の予防医療の発展のためには特に重要です。
・そこで、東北メディカル・メガバンク計画三世代コホート調査に参加した小児約1,000人の唾液由来DNAを用いてDNAメチル化状態を解析しました。その結果得られたデータに基づき算出した統計値(平均値と標準偏差)を、国内外の研究者が参照できるよう、岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構(IMM)が整備・運営するiMETHYLデータベースで公開しました。
・唾液は採取時に参加者に与える負担が少なく、小児から比較的安全に採取できる検体です。小児を対象とした疾患や健康リスクを調べる研究で採用されていますが、基礎疾患のない一般の小児を対象とした大規模なデータは限られていました。今回の結果は、そうした研究の際に比較参照される貴重なデータとして活用され、子どもたちの健康に関する研究を飛躍的に進める可能性を持っています。
用語説明
*1 DNAメチル化 : DNA分子がメチル基による修飾を受ける現象。とくにDNA塩基のひとつであるシトシンで生じる現象を指すことが多い。DNAメチル化状態は環境要因によって変化することがあり、DNAメチル化状態の変化は遺伝子の働きを変化させることがある。
*2 iMETHYL :岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構にて管理しているウェブデータベースおよびゲノムブラウザ。東北メディカル・メガバンク計画のコホート調査で収集したDNAメチル化データのサマリーなどを公開している。
*3 jMorp : 東北大学東北メディカル・メガバンク機構にて管理しているウェブデータベースおよびゲノムブラウザ。東北メディカル・メガバンク計画のコホート調査で収集したゲノムを含むセントラルドグマを網羅するデータのサマリーなどを公開している。
*4 非侵襲 : 注射や手術のように体に傷をつけたり負担をかけたりしない方法のこと。唾液や尿などを用いた検査・解析は非侵襲的であり、特に小児や高齢者において安全かつ負担の少ない検体採取法として利用される。
*5 エピゲノム変化 : DNAの塩基配列の変化を伴わない、遺伝子の働きの変化。DNAメチル化が代表例である。
*6 遺伝的背景 : 人種や集団ごとに異なる遺伝的特徴のこと。DNA配列の違いはエピゲノム状態にも影響を及ぼすため、日本人の健康や疾患研究には、日本人集団に基づいた参照データが重要となる。

