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2025.05.20

血中代謝物濃度のGWASと代謝ネットワークシミュレーション比較の論文が掲載

メタボロームGWAS(MGWAS)の結果と代謝ネットワークシミュレーションを比較した研究論文が、Scientific Reports誌に掲載されました。本研究では、MGWASで見出された遺伝子と代謝物濃度の相関が、代謝ネットワークシミュレーションによりある程度説明が可能であることを示しました。これにより、MGWASの解釈において代謝シミュレーションが有用な補完的アプローチとなり得ることを示しました。

過去のMGWASでは、遺伝子の変異と代謝物濃度の相関を解析してきましたが、代謝酵素ですら、その代謝酵素の機能変化が相関した代謝物の濃度に代謝ネットワークを通じて与える影響は不明な点が多い状況でした。研究チームは、この因果関係の検証手段として、代謝ネットワークシミュレーションについて検討しました。

実際の血中代謝物と遺伝子の相関を評価するため、東北メディカル・メガバンク計画の地域住民コホート調査に参加した個人を対象に、血漿中代謝物濃度に対するGWASを実施しました。次に、BioModels[1,2]から肝臓における葉酸代謝経路のモデル[3]を取得し、GWASで観察された遺伝子変異による代謝物濃度の変化が、同一遺伝子をシミュレーション上で操作した際に生じる代謝物濃度の変化と一致するかを検証しました。その結果、MTHFR遺伝子上の変異 rs1801133 に強く関連した4つの代謝物、および FTD 遺伝子上の変異 rs4646700 に関連した3つの代謝物において、それぞれの濃度変化の方向(濃度の増減)がシミュレーションによる予測と矛盾しないことを見いだしました。

代謝ネットワークにおいて、特定の反応の変化がどの代謝物の濃度変化に結びつくかは、単純なネットワーク構造であっても容易ではなく[4]、これまでMGWASの結果を解釈する上で障壁となっていました。本研究では、代謝ネットワークシミュレーションによって、MGWASで見出された相関が、特定の遺伝子変異による代謝ネットワークの部分構造で説明できることを示し、MGWASの機能的解釈に対する新しい手法を得ることができました。

1 Glont, M. et al. BioModels: expanding horizons to include more modelling approaches and formats. Nucleic Acids Research 46, D1248–D1253 (2018).
2 Malik-Sheriff, R. S. et al. BioModels — 15 years of sharing computational models in life science. Nucleic Acids Research 48, D407–D415 (2020).
3 Nijhout, H. F. et al. In silico experimentation with a model of hepatic mitochondrial folate metabolism. Theoretical Biology and Medical Modelling 3, 1–11 (2006).
4 Okada, T., & Mochizuki, A. (2018). 生体内化学反応はトポロジーで決まる [Biochemical reactions in living organisms are determined by topology]. 日本物理学会誌, 73(1), 15–20. https://doi.org/10.11316/butsuri.73.1_15

書誌情報

タイトル:Simulating Metabolic Pathways to Enhance Interpretations of Metabolome Genome-Wide Association Studies
著者名:Shun Kodate, Mitsuharu Sato, Eiji Hishinuma, Kaname Kojima, Ikuko N Motoike, ToMMo Study Group, Seizo Koshiba, Masayuki Yamamoto, Kazunori D Yamada, and Kengo Kinoshita
掲載誌:Scientific Reports
掲載日:2025年5月16日
DOI: 10.1038/s41598-025-01634-7