第二回パイロット研究:医薬品の反応性に関する遺伝情報

~ゲノムコホート研究における個人への遺伝情報の返却(回付)に関するパイロット研究:医薬品の反応性に関する遺伝情報~

コホート調査に参加された方々に、遺伝情報を解析した結果、何か有用な情報が得られた場合に、適切な手続きを経てお知らせすることは、私たちと参加者の方々との間のお約束(インフォームド・コンセントの同意文書に記載)であると共に、私たちが目指す個別化医療・個別化予防に向けて必須のことです。しかし大規模コホート研究に参加された方に遺伝情報をお知らせした前例はほとんどなく、そうすることで、どのように感じたり行動の変化が起こったりするのか、ご家族へどのように影響するのか、まだ分かっていません。

遺伝情報には他の一般的な健康調査の検査結果にはない、不変性、予測性、共有性という特徴があります。
不変性:遺伝情報は一生変わらない
予測性:病気を発症する前に、リスクのある事がわかってしまう
共有性:親、きょうだいなどが同じ遺伝情報を持っていることがある

こうした特殊な性質を持つ遺伝情報を、どのように皆さまにお伝えしていくべきなのかなどを慎重に検討するために、東北メディカル・メガバンク計画では、限られた人数の方々を対象に遺伝情報の解析結果をお伝えするパイロット研究(試験的な研究)を2016年より開始いたしました(第一回パイロット研究:家族性高コレステロール血症)。
今回は、個人への遺伝情報の返却(回付)のパイロット研究の第2弾として、医薬品の反応性に関する遺伝情報を個人へ返却するパイロット研究を開始します。

研究の目的:医薬品の反応性に関する遺伝情報の返却を通じて、これらの遺伝情報への知識、関心など、結果を受けての有用性、また心理的変化等について調査し、今後の遺伝情報を活用した個別化医療・個別化予防の実現に向けて役立てることを目的として行います。 

研究期間:本研究期間全体は2019年10月から2024年3月まで。
実際に、研究にご協力いただく期間は、最初の参加時から約1年半です。

調べる遺伝子とそれに関する医薬品(表):
医薬品の反応性に関連する遺伝子は現在120ほど知られています。今回ご協力いただく研究では、国際的なガイドラインやランク付けなどの情報を元に、その中でも特に重要な3つの遺伝子について、遺伝子に変化があるかどうかをお調べします。
1. ミトコンドリアDNA1555
この遺伝子に特徴があると、感染症や結核の治療に用いられるアミノグリコシド系抗生物質によって、難聴になるリスクがあり、一般人の約0.1~0.3%に遺伝子の変化があります。ミトコンドリアの遺伝子の変化は、母親から子に遺伝します(母系遺伝)。
2. CYP2C19遺伝子
この遺伝子に特徴あると、特に低活性型の場合は、心筋梗塞や脳梗塞の予防に使用する血液をサラサラにする抗血小板薬(クロピドグレル)で、十分な効果が期待できないことがあります。胃酸を抑える消化性潰瘍の治療薬(ランソプラゾール、オメプラゾール)で、高い効果が得られることがあります。また、カンジダなどの真菌の治療薬(ボリコナゾール)で、強い副作用がでることがあります。
この低活性型の遺伝子に特徴がある頻度は、一般人の20%(5人にひとりの割合)です。
3. NUDT15遺伝子
この遺伝子に特徴があると、炎症性疾患やリウマチ性疾患、移植後などに用いる免疫抑制薬(アザチオプリン)で、白血球減少などの副作用が強くでることがあります。また、白血病で用いる抗がん薬(メルカプトプリン)で、白血球減少などの副作用が強くでることがあります。この副作用が出やすい人は、1%(100人にひとりの割合)です。

遺伝子 くすりとその種類 遺伝子型と効きめや副作用 日本人での頻度

1. ミトコンドリアDNA1555

アミノグリコシド系抗生物質(ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、トブラマイシン等) 抗生剤 遺伝子型を有している場合,抗生剤の投与によって難聴になるという副作用があります.アミノグリコシド系の抗生剤は,現在,日本での使用頻度は少なくなっていますが,海外ではよく使われます.遺伝子型を持つ人は、このくすりを使用しないことで難聴の副作用を避けることができます. 副作用がおきやすい人0.1-0.3%
(400人から1000人に1人)

2. CYP2C19

クロピドグレル 抗血小板薬 血液をさらさらにする薬剤です.遺伝子型によって,効きにくくなります.その場合は,別のくすりを使うことがあります 高活性型35%
中間活性型45%
低活性型20%
ボリコナゾール 抗真菌薬 かび(真菌)に対する薬剤です。遺伝子型によって、副作用の可能性が強まります.その場合は,別のくすりを使うことがあります.
ランソプラゾール 消化性潰瘍治療薬 胃潰瘍の治療薬です.遺伝子型によってピロリ菌の除菌効果に差があります..
血液をさらさらにする薬剤です.遺伝子型によって,効きにくくなります.その場合は,別のくすりを使うことがあります.
オメプラゾール 消化性潰瘍治療薬
3. NUDT15 アザチオプリン 免疫抑制薬 炎症性腸疾患、白血病,リウマチ性疾患,臓器移植後などの治療に用いるくすりです.遺伝子型によって,脱毛や白血球の減少という副作用の可能性が強まります.治療の際の,このくすりの選択に有用です. 副作用がおきやすい人1%
(100人に1人)
メルカプトプリン 抗がん剤

今回調べる遺伝子とそれに関する医薬品

対象となる方
(1) 東北メディカル・メガバンク計画のコホート調査(地域住民コホート調査または三世代コホート調査)に登録されている方
(2) 成人(20歳以上)の方
(3) コホート調査参加時の調査票の「結果回付を希望しない」という項目にチェックしていない方
(4) ゲノム解析が行われている方*
上記の条件を満たす方の中で、無作為に約350名の方を抽出してお呼びかけします。なお、今回の研究では、呼びかけの前に、抗生物質により難聴になりやすいDNAのタイプを有する方については、事前に調べて、それらの方もお呼びかけの対象に含めています。
*東北メディカル・メガバンク計画では、研究に参加していただいた方の一部について、遺伝情報の解析を行っています。今回の研究では、(4)にあるように、遺伝情報の解析が終わっている一部の方が対象になります。また、遺伝情報の解析は終わっていても、家族性高コレステロール血症を含む病気などの原因となる変化があるかどうかの検討は行っていませんので、今回の研究に参加された方に対して、これらの検討を行うことになります。

対象となる方へのご連絡
・東北大学からパイロット研究参加をお誘いするお便りが直接届きます。

パイロット研究に参加するには
・対象となる方にはお便りが届きます。そのお便りに、研究の説明会への参加のご案内がございます。ご都合の良い会場(各地域支援センター)及び説明会の日程を同封の書類にご記入後、返信用封筒にて返送してください。
・後日、地域支援センターへの来所日時調整のためのご連絡をさせていただきます。
・説明会では、今回の研究の概要のビデオをご覧いただき、その上で、お一人お一人から研究参加に対する同意を頂きます。
※なお、お便りに対して参加したくないと感じられた方はその旨、ご返信下さい。その際に、同封した調査票(アンケート票)にご協力いただきたくお願いです。また、説明会にご参加された上で、研究参加をしないこともできます。参加しないことによる不利益は一切ありません。
・なお、本研究は、呼びかけを行った方より、先着順に合計約200名の方の研究参加を予定しています。

研究に参加すると知ることができること
・3つの遺伝子のタイプを知ることが出来ます。
・それぞれの遺伝子の特徴(タイプ)に応じた医薬品に対する反応の違いに関する情報を持っておくことは、該当する医薬品を使用するときに、副作用を予防したり、より効果的で、より安全な治療に役立てたりしていただくことが可能になります。
*ただし、該当の医薬品を内服している場合、今回の検査結果のみ医薬品の量や種類を自己判断にて調節することはお控えください。当該医薬品を内服などされている場合の問い合わせ窓口を用意しますのでご連絡ください。

研究に参加しても知ることができないこと
今回は3つの遺伝子のみを調べて返却しますので、その他の遺伝子が関わる疾患はわかりません。

研究参加にあたってご協力いただくこと
(1)説明会参加のご返信と予約およびアンケートの返送(1回目)(参加を希望されない場合は追加の調査票もお願いします)
(2)地域支援センターでの説明会へのご参加
(3)同意書へのサインとアンケート(2回目)
(4)採血(約10ml)
(5)遺伝子解析結果の回付(親展扱いの郵送にて)
*なお、ミトコンドリアDNA1555の検査によって、難聴を起こしやすい可能性のある結果の方については、必ず地域支援センターに来所していただき、対面にて結果を説明します。
 この対面による結果説明のセンター来所の日程については、登録いただいている連絡先にお電話をして調整します。
(6)結果説明後のアンケート(3回目)
(7)6か月後郵送によるアンケート(4回目)
(8)12か月後郵送によるアンケート(5回目)

研究参加にあたっての謝礼
研究参加にあたり交通費や謝金をお渡しすることはありませんが、研究参加より遺伝情報の結果返却後の調査までの期間の謝礼として、説明会参加の時に謝礼を進呈いたします。

研究に参加することでの利益
・個人の医薬品に対する反応(効果や副作用の現れ方)の違いが判明した場合には、その違いを知っておくことにより、該当する医薬品を使用するとき、よく効く薬や副作用の少ない薬を選択できます。ただし、他の遺伝要因や遺伝要因以外の要因(環境要因など)が関与するため、一対一には対応しておらず、効果や副作用発現の予測力が必ずしも高くないことがあります。
・特定の医薬品による難聴の副作用と関連する遺伝子は、原則として、母から引き継がれるため、多くの場合、本人の母、兄弟姉妹、子(参加者が女性の場合)も同じ遺伝子をもちます。このため、その遺伝子の情報を血縁者の方と共有し、該当する医薬品を避けることによって副作用による難聴の発症を避けることができます。その医薬品は、現在、日本での使用頻度は少なくなっていますが、海外ではよく使われます。また、難聴の発症者であった場合、その原因がわかり、該当する医薬品の使用を控えることによって、重症化を避けることができます。

研究に参加することでの不利益
・遺伝情報の特殊性から、ご案内の際、研究の途中、返却後の調査において、ストレスや抑うつ等が生じることがあるかもしれません。その場合、当機構内のメンタルヘルスの専門家や東北大学病院が対応を行います。
・パイロット研究に関しての不安や疑問に対しては、適切な遺伝カウンセリングを提供いたします。
・地域支援センターへの来所による時間的、経済的な負担があります。ミトコンドリアDNA1555による難聴になりやすいタイプの結果の場合は、結果説明のために来所していただきますので2回の来所が必要になります。アンケート調査のための時間の拘束が生じます。

研究を途中でやめるには
・本パイロット研究へのご参加は自由で、参加した後に途中で取りやめることもできます。
・本パイロット研究へのご参加は、もともとのコホート調査へのご参加と切り離してご判断して頂けます。ただし、もともとのコホート調査へのご参加を完全に取りやめた場合には、お伝えするべき情報も同時に消去されてしまいますので、本パイロット研究だけのご参加はできません。

・取りやめる場合には、下の問い合わせ先までご連絡下さい。
東北大学 東北メディカル・メガバンク機構 遺伝情報回付推進室
〒980-8573 宮城県仙台市青葉区星陵町2-1
Tel:022-274-5995(平日10時から16時)

よくあるQ&A

Q:研究参加の呼びかけの手紙をもらったのですが、私は、難聴になりやすいミトコンドリア遺伝子の特徴をもっているのですか?
A:今回は、難聴になりやすいミトコンドリア遺伝子の特徴を有する方を対象に呼びかけの対象に含めておりますので、その可能性はあります。ただし、頻度は、400から1000人にひとりとされています。

Q:難聴になりやすいミトコンドリア遺伝子の特徴を有することがわかりました。今後のことが心配です。
A:ミトコンドリア遺伝子の特徴を有する方の場合は、お手数ですが、地域支援センターにお越しいただき、遺伝の専門家が結果に関して詳しく説明いたします。ご相談しながら、東北大学病院の耳鼻咽喉科へ紹介をさせていただき、聴力の検査などの診療を受けることができます。また、ご家族についてのことは、同じく東北大学病院の遺伝子診療部にて相談や遺伝カウンセリングを受けることができます(なお、東北大学病院への受診等は、通常の保険診療になります)。

Q:該当する医薬品を内服していました。このまま飲み続けてよいのでしょうか。
A:今回の検査結果で医薬品の量や種類を自己判断にて調節することはどうぞお控えください。当該医薬品を内服などされている場合の「問い合わせ窓口」を用意します。研究参加の際にその問い合わせ窓口の連絡先をお渡しいたします。

Q:お金は、いくらかかりますか?
A:研究の参加には、費用はかかりません。ただし、研究参加の同意や結果の説明のために、地域支援センターにお越しいただくことが必要で、そのために交通費がかかります。

Q:仙台までは遠くて、行くことができません。
A:研究に参加いただくための説明会は、宮城県内7か所にある地域支援センターで行います。研究参加の呼びかけの際に、どのセンターをご希望されるかを伺います。

Q:家族・友人にも調査を受けさせたいのですが?
A:東北メディカル・メガバンク計画のコホート調査の参加者であり、以下の要件に当てはまる方は参加いただけます。
・東北メディカル・メガバンク計画のコホート調査に登録されている方
・成人(20歳以上)の方
・調査参加時の調査票の「結果回付を希望しない」という項目にチェックしていない方
・ゲノム解析が行われている方
今回の研究の対象となる方には、研究参加の案内を送付開始しています。なお、コホートに参加していない方は、今回の研究にはご参加いただけません。

お問い合わせ先

東北大学東北メディカル・メガバンク機構 遺伝情報回付推進室
〒980-8573 宮城県仙台市青葉区星陵町2-1
Tel:022-274-5995(平日10時から16時)

関連リンク

ゲノムコホート研究における個人への遺伝情報の回付に関するパイロット研究(第1回 家族性高コレステロール血症)で、延べ200人以上の方に結果をお伝えしています。