河北新報 リレーエッセー 医進伝心 第55回

薬の効き方の個人差と遺伝子情報/種類や分量 調整が可能

2016年6月15日 掲載
平塚真弘

病気の治療に薬は欠かせません。生まれてから一度も薬のお世話になったことがない人はいないのではないでしょうか? 薬は私たちの健康の維持に必要不可欠なものかもしれません。
不思議なことに、同じ病気の人たちに同じ薬を同じ量飲んでもらっても、全ての人に効果があるわけではありません。効果の出やすい人もいれば出にくい人もいますし、また、副作用も同様です。特に副作用は、病気を治そうとした薬で逆に不調になるわけですから、「招かれざる客」というところでしょう。
最近、体の設計図である遺伝子上のDNAの並び方で薬の効果や副作用に個人差が出ることが分かってきており、薬の治療を行う前に遺伝子検査をして、その人に最も効果的かつ副作用が少ない薬の選択をする医療が進められています。
例えば、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の原因となるピロリ菌の除菌で使用する薬を投与する場合、日本人の約20%は遺伝的に薬がよく効くために、通常よりも少ない量でも高い効果が得られます。実際に国内のいくつかの病院では、遺伝子診断後に最適な薬の種類と投与量をオーダーメードして患者さんを治療しています。その結果、遺伝子診断をしない従来の治療法よりもピロリ菌の除菌成功率が高くなったそうです。
ほかにも、特定の抗生物質の使用により難聴になりやすい遺伝子や、がんや結核の薬で副作用が出やすい遺伝子上のDNAの並びが分かってきています。自分自身の遺伝子情報を上手に利用することで、副作用という「招かれざる客」を避けられる時代が訪れようとしています。

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