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道なき未知

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第8回 「終わりなき旅」の向こうに ~未診断疾患の患者さん達に診断を~

最近、手に力が入りにくいような気がする。
疲れがたまっているのかな? 何でもないだろう。いや、こんなに長く続くなんてもしかして何かの病気・・・?
「手に力が入りにくい」という「症状」から考えられる原因は、疲れ、筋肉の病気、脳や神経の病気・・・等々、数多くあります。ひとつの「症状」に複数の「病気」の可能性があり、原因や治療法は病気ごとに異なります。
「病気」の診断は患者さんの自覚症状や様々な検査結果により行われますが、診断が難しい病気もたくさんあります。たとえば非常にまれな病気は症例が少ないこともあり、判断が難しい場合が多いのです。
「症状」はあるのに何の病気かわからない。そのような病気をまとめて「未診断疾患」と呼んでいます。中には、何十年にもわたり診断がつかず、いわゆる「診断を求める終わりなき旅(diagnostic odyssey)」の状態が続いている方もいます。

未診断疾患に対しては世界的にも様々な取り組みが行われていますが、日本ではこの「終わりなき旅」の突破口を見つけるため、2015年「未診断疾患イニシアチブ Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases(IRUD)」が立ち上がりました。IRUDは日本全国の未診断疾患の患者さんに対して、主に遺伝情報からアプローチすることにより、希少・未診断疾患の研究を推進するプログラムです。
要は、未診断疾患の患者さんのゲノムと健康な人のゲノムを照らし合わせて、違うところを探せば、病気の原因などがわかってくるのではないか・・・という事なのですが、なにしろゲノムの情報量は膨大です。症状の特徴から「この辺が怪しいぞ」という特定の遺伝子を解析して調べる方法もありますが、未診断疾患の場合はどこを調べたらよいか見当もつかないことも多いのです。

ゲノム解析の世界では2010年台に大きな技術革新があり、低コストで「ゲノムをすべて読む」という事ができるようになりました。あたりを付けて特定の遺伝子を狙うのではなく、まずは全体を解析してみる、という事が可能になったのです。ただ、ゲノムの個人差はゲノム全体の0.1%と言われています。少なく思えるかもしれませんが、これを塩基一つ一つの違いと仮定すると300万個にもなります。疾患原因以外にも一人ひとりの差は膨大にあり、病気の原因を見つけるまでの道のりはまだまだ続きます。
何か効率的に未診断疾患の原因を探す方法はないでしょうか?

ところで、一人ひとりのゲノムの違いには色々なパターンがあります。ヒトのゲノム配列はA、T、G、Cという塩基の並びで成り立っていますが、その塩基の並びがごっそりと入れ替わっている、並びは同じでも何度も繰り返しが起きている、ある並びが無くなっている、等々・・・。その中にSNVというものがあります。SNVはSingle Nucleotide Variantの略で日本語では「一塩基多様体」と呼ばれます。例えば、「○○さんではAのところが△△さんではCになっている」のように塩基にひとつだけ変化があるところがSNVです。SNVが関わっているとされる病気は多数報告されているので、SNVに注目することにより効率よく病気の原因を絞り込める可能性があります。


SNVのイメージ



SNV SNP

SNVはゲノムの様々な場所にある


病気の遺伝情報と比較するためには「病気ではない」遺伝情報が必要です。ToMMo では一般住民を対象に日本人に特徴的なものを含むSNVを何千万個も見付けてカタログ化しました。このようなゲノムのバリエーションをカタログ化したものを「ゲノムリファレンスパネル」といいます。

参考: 東北メディカル・メガバンク計画による 3.5千人分の日本人全ゲノムリファレンスパネルに X染色体とミトコンドリアゲノム情報を追加【プレスリリース】

この成果は実際にIRUDでも活用されています。ある実例では、全エクソーム解析という方法でタンパク質生成の情報を持つところ全てを探索した結果、疾患の原因となる病的変異の候補が12万箇所も見付かりました。これを最終的には数十箇所にまで減らしたのですが、ToMMoの日本人全ゲノムリファレンスパネルが絞り込みの過程で貢献しました。このパネルの対象は一般住民(主には病気ではない)なので、含まれているSNVは、希少疾患、未診断疾患の原因となっている可能性は低く、フィルターとして有効なのです。

ゲノムの違いがもたらす影響がわかってくると、「一人ひとりの違い」と病気の仕組みの関係が明らかになってきます。そうすると、まれな病気だけではなく多くの人が罹る病気を含め、たくさんの病気の解明にも役立ちます。このような未診断疾患に対する試みは未診断疾患だけにとどまらず、もっと大きな範囲に影響を与える可能性があります。

ちょっとした体の不調に「もしかして重い病気かも?」と不安に思った経験は誰にでもあるものです。ほとんどは病院を受診したりして治ってしまうものですが、不調がずっと続いたらどうでしょうか? そしてその原因が調べても調べてもわからなかったらどうでしょうか? 具合は悪いのに何の病気かわからない、そもそも病気なのかどうかもわからない。想像しただけでつらく不安な気持ちになります。
未診断疾患の患者さんが終わりなき旅の向こう側に光を見付け、そして今度はその光に向かって次の旅を始める・・・。強い光もあれば、今はまだ微かな光の場合もあるかもしれません。ただ、私たちが行っている「一人ひとりの違い」を探す研究は、光を見付け、そしてその光をより強くします。どんな時でも患者さんに寄り添い、一緒に旅をしていく仲間なのです。

(担当:是枝幸枝)

参考

IRUDの方針についての論文(AMED)
Japan’s Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases (IRUD): towards an end to the diagnostic odyssey[日本の未診断疾患イニシアチブ(IRUD):診断を求める終わりなき旅の終焉を目指して]
Takeya Adachi, Kazuo Kawamura, Yoshihiko Furusawa, Yuji Nishizaki, Noriaki Imanishi, Senkei Umehara, Kazuo Izumi & Makoto Suematsu
European Journal of Human Genetics volume 25, pages 1025–1028 (2017)
doi:10.1038/ejhg.2017.106

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