お知らせ
- 2026.10.05
東北メディカル・メガバンク機構シンポジウム「共創するバイオバンクへ」を開催しました
7月29日(水)、東京・日本橋にてシンポジウム「共創するバイオバンクへ」を開催し、2026年度から始まった第4段階のビジョンおよび今後の展開を多くの方々と共有しました。東日本大震災からの復興事業として始まった当計画は、15万人規模のコホート調査と大規模バイオバンク構築を経て、新たなフェーズへと進んでいます。第4段階では、これまで蓄積してきたゲノム等の解析情報・健康情報・生体試料などの膨大なリソースを活用し、予防医療や個別化医療、創薬への社会実装を加速させていく方針について、シンポジウムを通じて参加者の皆さまに共有しました。

バイオバンクは「集める」から「活用する」へ
最初に4月よりToMMo新機構長に就任した張替秀郎機構長は開会挨拶で、ToMMoがこれまで地域住民の協力のもと構築してきたバイオバンクは、もはや研究者だけの資産ではなく、産業界や行政を含む社会全体の基盤である、と強調しました。また、今後はアカデミア、企業、行政、地域社会との連携をさらに強化し、「共創」の考え方を中心に据えた今後のビジョンに焦点を当てていくことについて語り、シンポジウムが開幕しました。

張替秀郎機構長
次に4名のご来賓の皆さまからご挨拶をいただきました。文部科学省 ライフサイエンス課 倉田佳奈江課長(当時)からは、高市総理の掲げる『攻めの予防医療』が政府内でも検討が進められている、バイオバンクの試料、データを活用し、またAI活用も踏まえた創薬等様々な研究への一層の成果創出、社会実装に向けた取組を文部科学省としても期待している、とのお言葉をいただきました。

文部科学省 ライフサイエンス課 倉田佳奈江課長
続いて、日本医療研究開発機構データ利活用・ライフコース研究開発事業部 田中桜部長(当時)が、AMEDの行っている出口支援事業として、ToMMoを含めた国内のバイオバンクのデータの基盤連結を進め、利活用を促進していきたい、と述べられました。

日本医療研究開発機構データ利活用・ライフコース研究開発事業部 田中桜部長
続いて、内閣府健康・医療戦略推進事務局 日野原友佳子参事官からは、AIをはじめとしたデジタル技術の飛躍的な向上に伴ってデータそのものが持つ重要性が非常に高まっている中で、TMM計画は国が目指す創薬・先端医療のイノベーションにつながる重要な資産である、今回のシンポジウムを通して我が国のイノベーションを牽引する存在として日本発のヘルスケア産業に貢献し続け、新たな連携につながることを期待している、と述べられました。

内閣府健康・医療戦略推進事務局 日野原友佳子参事官
岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構 丹野高三機構長からは、第4段階はこれまで蓄積してきた成果を土台にその価値を広げ、社会に還元していく節目であること、機能拡張と利活用促進にともに努めていく、このシンポジウムが「共創するバイオバンク」の意義を広く共有する実り多い機会となる、とのお言葉をいただきました。

岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構 丹野高三機構長
診療情報とバイオバンクを連結
はじめに張替秀郎機構長の講演では、第4段階の大きな柱の一つが診療情報との連携強化であり、これまでの健康調査データに加え、東北大学病院や関連病院の診療情報との連結を進めることなど、今後の展望について述べました。発症前から発症後までの経過を長期間にわたって追跡できるようになり、疾患発症予測や早期診断、創薬ターゲット探索への活用が期待されることを語りました。東北大学病院長を務めた張替機構長は、臨床における具体的な疾患、例えば、糖尿病やがん、リウマチなどを発症した参加者について、発症前数年から十数年にわたる健康情報や生体試料を遡って解析できることが大きな強みになる、と述べました。

張替秀郎機構長
大規模ゲノムデータが拓く新しい医療
続いて、日本ゲノム医療推進機構(GeMJ)水澤英洋機構長より基調講演をしていただきました。各国が国家戦略としてゲノム医療へ大規模投資し、世界的にゲノム医療・ゲノムサイエンスが急速に発展している現状を紹介するとともに、日本でもゲノム医療推進法およびゲノム医療施策に関する基本的な計画のもと、ゲノム医療が国家プロジェクトとして推進されていることを説明しました。その上で、GeMJがAMEDと連携のもと、全ゲノム解析、データ管理・利活用を推進する中核的な役割を担い、先行するバイオバンクや医療機関、研究機関、産業界、行政など多様な関係者との連携を通じて、がんや難病などのデータの集約、解析基盤整備に貢献していくことについて紹介いただきました。

日本ゲノム医療推進機構 水澤英洋機構長
広がる、つながるバイオバンク ―バイオバンク利活用新時代―
続いて大根田絹子副機構長より、これまで蓄積してきたバイオバンクの試料・情報の利活用について、事例を用いながら紹介しました。これまでTMMバイオバンクを利活用した研究は約600件、うち企業によるものは100件以上あります。その成果は論文として発表されており、引用論文と合わせると2000報以上となっています。
さらに多くの利活用につながるよう、バイオバンクの拡充と利便性の向上、そして公的情報とのリンケージによるライフコース全体の情報収集や、オミックス解析情報のさらなる多層化にも取り組んでおり、こうした活動を「広がる、つながる」というメッセージに込めて紹介しました。

大根田絹子副機構長
これまでの利活用事例
次に、実際にTMMバイオバンクをご活用いただいている4名の方から、具体的な活用事例や、利用を通じて得られた経験・感想についてご紹介いただきました。
最初に「全ゲノム解析を用いたクローン性造血(CHIP)の同定」として、国立がん研究センター 東病院 血液腫瘍科 フィジシャン・サイエンティスト 池成基先生よりお話しいただきました。TMM計画で収集した約5万人分のゲノムデータを解析し、CHIPと加齢との強い関連や、欧米人との遺伝子変異の違いなどを明らかにした研究が紹介されました。また、日本の地域住民におけるCHIPの実際の有病率を示し、リアルワールドでの実態解明につながったことが報告されました。

国立がん研究センター 東病院 池成基先生
次に「発症前の“体と暮らし”が語る、身近な難病のはじまり」として、東北大学病院 消化器内科 角田洋一准教授よりお話しいただきました。潰瘍性大腸炎の発症前の血液や生活情報を「タイムマシン」のように過去に遡って活用した研究を紹介しました。発症数年前から高値となるバイオマーカーや、リスク因子としての「不眠」を解明したことが報告されました。角田准教授からは、前向きコホート調査は発症が出現する前に何が起きていたかを知るおそらく唯一の方法、という言葉をいただきました。

東北大学病院 角田洋一准教授
次に「“ToMMo” に10年」として、株式会社ヤクルト本社 中央研究所 加藤豪人氏よりお話しいただきました。10年の長きにわたる産学連携研究となった、乳酸菌の摂取や腸内細菌叢が健康や疾病予防に与える影響を追跡する共同研究を通して、企業視点でのバイオバンク利活用のメリットや知見を紹介いただきました。

株式会社ヤクルト本社 加藤豪人氏
利活用事例の最後に「嗅覚と脳画像・認知機能に関するアドオンコホート」として、株式会社豊田中央研究所 ヒューマンサイエンス研究領域 主監 今枝孝夫氏よりお話しいただきました。独自開発の装置を用いた簡易な嗅覚テストを、脳と心の健康調査にアドオン調査として組み入れた研究を紹介いただきました。嗅覚テストが、特に70歳以上の高齢者における軽度認知障害(MCI)の早期検出や、脳の海馬等の萎縮度合いの推定に有用であることを明らかにしたことが報告されました。それらの成果は既に5報の論文として発表されています。

株式会社豊田中央研究所 今枝孝夫氏
新たな利活用に向けた海外動向
次にBCプラットフォームズのChief Science OfficerであるTimo Kanninen氏が、フィンランドよりオンラインで登壇し、「European Health Data Space (EHDS) regulation facilitates using 400M EU citizens unconsented health and genomics data for research and innovation」として、欧州ヘルスデータスペース(EHDS)規制とフィンランドのゲノム医療について紹介いただきました。
2025年採択・3月発効のEHDS規制に伴う、安全なデータ処理環境(SPE)の仕組みやそのオペレーターが果たす重要な役割、さらに、人口の約10%を網羅するフィンランドの大規模コホートデータを活用した、AIによるゲノム医療の最新動向や、日本における具体的な協業体制についても紹介いただきました。

BCプラットフォームズ Timo Kanninen氏
第4段階における健康調査の新たな展開
続いて泉陽子副機構長より、ToMMoの第4段階における健康調査に関する新たな展開について説明しました。ToMMoの新たな取り組みとして注目されている「リコンタクト登録」について紹介しました。「リコンタクト登録」とは、参加者本人の同意を前提に、特定の条件(検査値など)に該当する人へ再度連絡(リコンタクト)を取り、追加研究や臨床試験への参加案内を行う仕組みのことです。これにより、研究者や企業は対象を絞った研究を効率的に実施できるようになり、創薬や予防介入研究の大幅な促進が期待されています。
健康調査分野では、三世代コホートの特徴を生かした新たな取組も始まります。これまで胎児期から追跡してきた子どもたちが思春期を迎えることから、毎年調査を実施し、成長やホルモン変化、心身の発達を詳細に追跡する計画について説明しました。また、女性の健康課題をライフコース全体で捉える研究も重点テーマとなります。思春期、妊娠・出産、更年期を一連の流れとして解析することで、女性特有の健康課題への理解を深めることの重要性について説明しました。

泉陽子副機構長
第4段階におけるゲノム・オミックス解析の展望
講演の最後に木下賢吾筆頭副機構長より、ToMMoの第4段階におけるゲノム・オミックス解析の展望について説明しました。第第4段階では、ゲノム解析に加え、メタボロームやプロテオームなどの多層オミックス解析も拡大予定であること、これまでの全ゲノム解析やメタボローム解析に加え、タンパク質情報を対象とした大規模プロテオーム解析を推進し、疾病発症のメカニズム解明や新規創薬標的の探索につなげていくことを述べました。また、長鎖リードシークエンス解析やエピゲノム解析などの先端解析技術の導入も進め、日本人の健康・疾患研究を支える基盤データをさらに充実させる方針を示しました。
講演の締めくくりには、ToMMoが目指す将来像として、出生から高齢期までの健康・医療データを長期的に蓄積し、研究者や企業、行政が活用できる社会基盤「ライフコースデータインフラ」という概念を示しました。

木下賢吾筆頭副機構長
「共創」をキーワードにさらなる挑戦を
閉会のあいさつでは、3月まで初代機構長を務めた山本雅之機構長特別顧問が登壇しました。15年にわたり構築してきた世界有数の複合バイオバンクは、第4段階で「共創」をキーワードに、リコンタクトコホートなどの新たな挑戦を始めようとしていること、創薬、予防医療、個別化医療の実現へ向けて、世界に先駆けたプロトタイプを目指すこと、が語られました。ToMMoが目指す将来像である「ライフコースインフラ」という概念をこれからも多くの皆様のご協力を得て作り上げていきたい、と述べシンポジウムは幕を閉じました。

山本雅之機構長特別顧問