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2025.09.08

頭頸部扁平上皮がんにおけるシスプラチン耐性とNRF2の活性化に関する論文が掲載

頭頸部扁平上皮がん(HNSCC)において、シスプラチン(CDDP)耐性の獲得機構に転写因子NRF2が関与することを明らかにし、NRF2が活性化したCDDP耐性がんを標的とする新たな治療戦略を提案しました。これらの成果は、国際科学誌Redox Biologyに掲載されました。

HNSCCに対する根治治療として、CDDPを併用した化学放射線療法が標準とされていますが、薬剤耐性の獲得や治療後の再発が高頻度に生じることが大きな課題です。近年、NRF2が活性化したがん細胞は、薬剤耐性やがんの増殖を促進することが報告されています。本研究では、CDDP耐性の分子機構を明らかにするため、KEAP1-NRF2制御系に着目しました。

本研究では、HNSCC細胞株(P株)と、そのCDDP耐性株(CR株)の7ペアを用いて、CR株におけるNRF2の活性を解析しました。その結果、2つのCR株において、P株に存在しないKEAP1遺伝子変異が導入されており、NRF2経路が活性化していることを見出しました。NRF2が活性化したCR株では、薬物代謝や酸化ストレス応答に関連する遺伝子群の発現が亢進しており、NRF2の活性化がCDDP耐性に寄与することが示されました。さらに、マイトマイシンC(MMC)は、NRF2の標的遺伝子産物であるNQO1を介して合成致死作用を示すことから、NRF2が高発現したCR株に対してMMCが強い抗腫瘍効果を発揮することが明らかになりました。

これらの結果から、CDDPの投与によってKEAP1変異が生じ、NRF2の活性化が誘導されること、さらにCDDP耐性を獲得したNRF2高発現HNSCCにはMMCが有効な治療薬となることが示されました。MMCは既存の抗がん剤ですが、HNSCCに対する標準治療薬としては用いられていません。今後、NRF2が活性化したがんを対象とした臨床試験を実施することにより、MMCが新たな治療選択肢として臨床応用されることが期待されます。

書誌情報

タイトル:Cisplatin-induced genetic alterations in KEAP1 promote therapeutic resistance in head and neck squamous cell carcinoma
著者名:Yuki Nakayama, Keiko Taguchi, Shun Wakamori, Akira Uruno, Akihito Otsuki, Akira Ohkoshi, Hidekazu Shirota, Tomoyuki Iwasaki, Yukio Katori, Masayuki Yamamoto
掲載誌:Redox Biology
掲載日:2025年8月11日
DOI:10.1016/j.redox.2025.103819