お知らせ
- 2025.09.02
肺がんに対するKRAS-G12C抗がん薬の第2の抗がん機能を発見
KRAS-G12C変異を標的とする肺がん治療薬であるソトラシブおよびアダグラシブが、KRASを阻害するだけでなく、KEAP1-NRF2経路を活性化するという第2の抗がん機能を持つことを発見しました。
肺がんは世界で最も死亡者数の多いがんです。近年の肺がん治療における重要な進展のひとつは、腫瘍形成の重要な調節因子であるKRASを阻害する新しい種類の治療薬が発見されたことです。KRASとは細胞の成長や分裂を制御する遺伝子で、細胞の増殖を適切に調整する「スイッチ」の役割を果たしますが、G12C変異が起きるとスイッチがうまく働かなくなり、非小細胞肺がんの発症に関与します。新しく発見されたがん治療薬はこのKRAS-G12C変異を標的としています。
KRAS-G12C変異がんでは、生体防御機構のひとつであるKEAP1/NRF2に複数の突然変異(co-mutations)が頻繁に見られるため、この治療薬がKEAP1-NRF2経路にもたらす作用の理解が必要と考えました。
本研究では、これらのがん治療薬がKRASを阻害するだけでなく、KEAP1-NRF2経路を活性化するという第2の抗がん機能を持つことを発見しました。これらのがん治療薬は錠剤であるため、体内で徐々に吸収されて血液中に入ります。このため、KEAP1-NRF2経路は患者の全身、すなわち健康な細胞と腫瘍細胞の両方で活性化されることになります。研究グループは、このKEAP1-NRF2経路の活性化が、免疫系の腫瘍に対する攻撃能力を高めるなど、KRASの阻害とは別のプロセスにより抗がん作用に寄与する可能性があることを発見しました。
本研究および先行研究では、KEAP1に変異がある患者はKRAS阻害薬への反応が乏しいことが示されており、この仕組みを明らかにすることにより他の治療を提案できる可能性があります。
また、ソトラシブおよびアダグラシブがKEAP1-NRF2経路を活性化することが明らかになったため、この作用を前提とした新たな治療戦略の開発が考えられます。
書誌情報
タイトル:Systemic activation of NRF2 contributes to the therapeutic efficacy of clinically-approved KRAS-G12C anti-cancer drugs
著者名:Liam Baird, Lin Zhang, Takanori Hidaka, Lyu Xi, Ke Wang, Keiko Tateno, Tatsuro Iso, Takafumi Suzuki, Kazuki Kumada, Fumiki Katsuoka, Kengo Kinoshita, Masayuki Yamamoto
掲載誌:British Journal of Cancer
掲載日:2025年9月1日
DOI:https://doi.org/10.1038/s41416-025-03162-7