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2023.10.10

地域住民コホート調査から糖尿病の家族歴、遺伝リスクおよび生活習慣の組み合わせと糖尿病有病に関する論文が掲載

地域住民コホート調査をもとにした糖尿病の家族歴、ポリジェニックリスクスコア*1、生活習慣スコアの組み合わせと糖尿病有病に関する論文がJournal of Atheroslcoersis and Thromobosis誌に掲載されました。

糖尿病は遺伝リスクおよび生活習慣が関与する疾患とされています。これまで、欧米人を対象として、遺伝リスクおよび生活習慣と糖尿病の関連が明らかにされていますが、日本人を対象にした研究はありませんでした。また、臨床現場では糖尿病の家族歴が遺伝リスクの参考として用いられていますが、遺伝リスク、生活習慣に加えて糖尿病の家族歴を組み合わせて、糖尿病との関連を調査した研究はありませんでした。そこで、本研究では、バイオバンク・ジャパン*2で行われたゲノムワイド関連解析(GWAS)*3から得られた結果に基づいてポリジェニックリスクスコア(PRS)を算出し、健康的な生活習慣(非肥満*4、非喫煙、規則的な身体活動*5、低Gamma-glutamyl transferase*6)、および糖尿病の家族歴の有無を組み合わせて糖尿病有病の関連を検討しました。

本研究において、PRSと生活習慣はそれぞれ独立して糖尿病有病と関連しており、遺伝リスクが低く(ポリジェニックリスクスコアが低値)とも、不健康な生活習慣を有するほど糖尿病有病率が高い関連が認められました。また、健康的な生活習慣を遵守していても、遺伝リスクが高い場合、糖尿病有病率が高い関連が確認されました。また、遺伝リスクが低く、健康的な生活習慣を有していても、糖尿病の家族歴を有する場合、糖尿病有病率が高いことが観察されました。遺伝リスクが高く、不健康な生活習慣および糖尿病の家族歴を有する場合、最も糖尿病有病率が高いことが明らかになりました。このことから、ポリジェニックリスクスコアは糖尿病の高リスク者の推定に有用である可能性が示されました。また、遺伝リスクが低く、健康的な生活習慣を有していても、糖尿病の家族歴を有する方は定期的なスクリーニングや早期介入が糖尿病予防に必要な可能性が示されました。最後に、遺伝リスクや糖尿病の家族歴の有無に関わらず、健康的な生活習慣の順守は糖尿病予防に重要である可能性が示唆されました。

バイオバンク・ジャパンの代表で東京大学大学院創成科学研究科の松田浩一教授は次のように述べています。「本研究は、疾患バイオバンクであるバイオバンク・ジャパンで得られた解析結果を、一般住民バイオバンクである東北メディカル・メガバンク計画が活用して検証した、双方の特長を活かした事例です。今後の両バイオバンクの利活用の幅広い展開やお互いの協力関係の発展は、これからの多くの成果につながると期待されます。」

*1 ポリジェニックリスクスコア:GWAS等で、疾患との関連が示唆されたゲノム多型サイトについて、高リスク多型がもたらす推定効果量と、各個人が持つ高リスク多型の数の積をすべて足し合わせて得られる数値。個人ごとに算出され、このスコアに基づいて、様々な疾患における遺伝的な発症リスクの高低を定量的に評価できる。疾患の有無だけでなく、血圧や血糖値などの連続的な測定値についても用いられる。
*2 バイオバンク・ジャパン:「ひとりひとりの体質に合った医療」をめざす研究の基盤として、47種類の病気の方を対象として約20万人の患者さんに協力いただいている世界最大級の疾患バイオバンク
*3 ゲノムワイド関連解析(GWAS):SNPを主としたヒトゲノムの全体をほぼカバーする数百万から数千万の変異情報について、形質と合わせて統計学的な処理を行うことで遺伝子と形質の関連性を調べる遺伝解析手法
*4非肥満: Body Mass Index(BMI)(体重(kg)を身長(m)の2乗で割った指標、体格の指標として広く用いられる)が25.0kg/m2未満と定義
*5 規則的な身体活動:中強度の身体活動を週150分以上および/または高強度の身体活動を週75分以上と定義
*6 Gamma-glutamyl transferase (GGT) :肝機能指標として広く用いられており、飲酒や脂肪肝の代理マーカーとして使用され、特定健康診査でも検査が可能

書誌情報

タイトル: Influence of Diabetes Family History on the Associations of Combined Genetic and Lifestyle Risks with Diabetes in the Tohoku Medical Megabank Community-Based Cohort Study
著者:Masato Takase, Naoki Nakaya, Tomohiro Nakamura, Mana Kogure, Rieko Hatanaka, Kumi Nakaya, Ippei Chiba, Ikumi Kanno, Kotaro Nochioka, Naho Tsuchiya, Takumi Hirata, Akira Narita, Taku Obara, Mami Ishikuro, Akira Uruno, Tomoko Kobayashi, Eiichi N Kodama, Yohei Hamanaka, Masatsugu Orui, Soichi Ogishima, Satoshi Nagaie, Nobuo Fuse, Junichi Sugawara, Shinichi Kuriyama, Ichiro Tsuji, Gen Tamiya, Atsushi Hozawa, Masayuki Yamamoto, and the ToMMo investigators.
掲載誌: Journal of atheroslcoersis and thromobosis
掲載日:2023年10月6日(早期公開)
DOI: 10.5551/jat.64425

※なおテーブルの一部に不備があったため、掲載誌に確認のうえ本公開時に修正する予定です。