河北新報 リレーエッセー 医進伝心 第50回

最新の脳科学がひらく医工学の可能性/頭皮から刺激脳に効果

2016年4月6日 掲載
 阿部十也

脳は、よくパソコンの電子回路に例えられます。読み出し、計算、書き込みをして保存する-そのようなイメージをお持ちではないでしょうか? しかし、脳と電子回路は決定的に違います。パソコンは電子回路の配線構造が変わらないのに対し、脳の神経回路は配線の組み換えが起こります。使い方によって、神経回路を柔軟に変化させ、効率的に処理する能力を、脳は持っているのです。これを脳の可塑性と呼びます。
脳の可塑性を最大限に引き出すことで、学習能力を高めることができます。私の属する研究グループでは、電磁気で脳を刺激し脳の可塑性を高める技術を使って、細かく手指を操る動作スキルの学習能力を高めることに成功しました。
工学技術の進歩により、人体を傷つけず、ターゲットとする脳の部位を、その直上の頭皮から刺激する技術が、最近になって確立しました。この技術を用い、数日間、学習の最中にごく微弱な電気刺激を反復して与えると、刺激を与えない場合に比べて、スキルの成績が向上しました。しかも効果は、1か月近く残ることが示されました。この技術は運動スキルの学習だけでなく、認知学習でも応用可能なことが証明されています。脳の潜在能力を、その人の意思とは関係なく、工学技術で引き出すことが可能なのです。
この刺激法は、脳卒中や神経難病であるパーキンソン病の運動機能障害に対するリハビリテーション治療法の開発に応用され、その効果を臨床治験で検討中です。そう遠くない将来に、病院で目にする機会があるかもしれません。

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