未知のなかば さんぽ未知

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第10回 凍らせて小さい世界を見る
―クライオ電子顕微鏡でどんどん見える分子構造―

小さいものを大きく拡大して、とても見えそうになかったものが見えるようになる。それはとてもワクワクする体験です。私たちは、小学生の時に虫メガネや顕微鏡を使って花粉やでんぷん、プランクトンなどを観察しました。

顕微鏡の発展は、医学の世界にも貢献しています。我が国の北里柴三郎によるペスト菌の発見、志賀潔による赤痢菌の発見も顕微鏡を用いることで世界的な業績を成し遂げています。しかし、野口英世は黄熱病の研究に力を注ぎましたが、自らが黄熱病にかかり亡くなってしまいます。実は、黄熱病の病原体は当時の顕微鏡(光学顕微鏡)では見ることができないウイルスだったのです。毎年流行するインフルエンザや今世界中に蔓延している新型コロナもウイルスです。

ウイルスは物理化学的な性質が解明されたことで、タンパク質からできていることがわかりました。また、その後の研究で結晶化に成功し、X線結晶構造解析で構造を見ることが可能になりました。この解析には標的分子となるタンパク質を結晶化するプロセスが必要ですが、結晶化が難しいタンパク質も多く、化合物デザインの精緻化における課題となっています。余談ですが、国際宇宙ステーション「きぼう」で、宇宙の無重力環境を利用した高品質タンパク質結晶生成の実験がされるほど結晶化は難しいようです。

そして、1980年代に「クライオ電子顕微鏡」が誕生しました。クライオ(cryo-)とは、低温の、冷凍の、という意味です。クライオ電子顕微鏡は液体窒素(-196℃)冷却下でタンパク質などの生体分子に対して電子線を照射し、試料を観察します。クライオ電子顕微鏡は、結晶化のプロセスを必要としないため、X線結晶構造解析で困難であった多くのタンパク質の立体構造解析が可能になりました。

2021年、東北大学に東北地方では初めて300kVクライオ電子顕微鏡(電子波長は0.002nm)が導入され、同年秋には利用される予定です。アカデミア創薬に関わる支援拠点のひとつとして、多様な生体高分子の構造解析を実施し、各機関や研究者と協力しながら創薬研究を加速し、世界の医療に貢献することが期待されています。

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