ゲノムを含むオミックス解析

3. ゲノムを含むオミックス解析

3-1. 概要

当計画では、コホート調査で得られた生体試料からゲノム・オミックス解析を行い、データとして複合バイオバンクに蓄積しています。蓄積したデータは分譲もしくは、統計情報等にして個人特定を防いだうえでインターネット上に公開するなどして、全国の研究者と共有しています。多くの研究者が必要とする汎用性の高い情報を優先的に解析しており、共有を受ける研究者は、自身で解析や統計処理をすることなく高品質の解析データを得ることができます。またデータとしての共有は、バイオバンクの生体試料の枯渇を防ぐ意味もあります。

3-1-1. 解析のデザイン

ゲノム解析については、短鎖リード技術による全ゲノム解析とSNPアレイ解析のほか、長鎖リード技術による解析を実施しています。数千人単位での全ゲノム解析を行い、リファレンスパネルを作成し、その結果をもとに日本人に最適化したジャポニカアレイ®を開発しました。ジャポニカアレイ®によるSNPアレイ解析で、コホート調査参加者15万人全員分の解析を実施しています。8,000人を当初の目標として掲げた全ゲノム解析をもとにした全ゲノムリファレンスパネルにはcommon diseaseに関係するゲノム配列変異の大部分が包含されると予測しています。コホート調査参加者それぞれのゲノム解析とは別に、長鎖リード技術を用い、基準ゲノム配列(JG1)の作成にも取り組んでいます。
オミックス解析については、メタボロームを中心にプロテオームについても解析を実施しています。メタボローム情報については、詳細二次調査により経時的な変化データも得られつつあり、最終的には7万人を目標に、万単位のヒトの加齢変化を分子的、かつ 網羅的に参照可能なデータコレクションとなる予定です。

・当計画ゲノム解析ロードマップ

ゲノム・オミックス解析事業のデザイン(論文)

3-2. 状況と成果
3-2-1. ゲノム解析

2020年度中に8,000人の全ゲノム解析と、コホート調査参加者全員である15万人のSNPアレイ解析を完了する予定です。SNPアレイ解析については現在ジャポニカアレイ®NEOを中心に実施しています。ジャポニカアレイ®NEOは、ゲノム上の網羅的なSNP情報の取得に加えて、既知の疾患関連SNPのジェノタイピングも狙った設計になっており、この解析データの蓄積により、SNPと疾患の発症、環境要因との関連が詳しく解明されると考えます。種々のゲノム解析結果は分譲対象として全国の研究者と共有します。さらに、全ゲノム解析結果をもとに全ゲノムリファレンスパネルを更新しインターネット上で公開します(2020年9月現在、8,300人分の全ゲノムリファレンスパネル(8.3KJPN)を公開)。当計画でこれまで解析した基盤データは、既にバイオバンク・ジャパン(BBJ)を始めとする他の疾患コホートに対する健常者コントロールとして活用されています。また、糖尿病、高血圧などにおいて、日本人における新規の疾患関連バリアントの同定にも貢献しています。未診断疾患イニシアチブ(IRUD:Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases)では健常者コントロールデータとして活用され、未診断疾患患者の診断率向上にも大きく貢献することができました。一方、長鎖リードシークエンサーによる解析については、3名の一般住民の解析結果を統合した日本人基準ゲノム(JG1)を構築しました。今後は、長鎖リードシークエンサーによる解析を大規模化して実施することで、短鎖解析では解析が困難な構造多型の一般住民集団での頻度推定を行い、構造多型についても健常者コントロールデータ、そしてより高精度な日本人基準ゲノムを構築していく予定です。

3-2-2. オミックス解析

ゲノム解析のほかに、メタボロームなどのオミックス解析については、コホートスケールである3万人規模の解析が完了しており、2020年度にはさらに約2万人の解析を行う予定です。このうち1万5千人程度のメタボローム解析の統計情報については日本人多層オミックス参照パネル(jMorp)として既に公開しており今後順次対象数を増やして公開する予定です。メタボロームとゲノム解析の関連解析(MGWAS:metabolome-genome wide association study解析)では、新規の関連を多数報告しており、他にも様々な解析を進めています。具体的な成果としては緑内障に関する視神経障害のバイオマーカーを同定しています。これに加えて、うつ病、動脈硬化に関してもマーカーの候補となる化合物が発見されており、ゲノムと同様メタボロームについても健常者コントロールデータとして有効であることが明らかになっています。今後は、詳細二次調査の試料のオミックス解析データから得られた経時変化の情報を解析していくことにより、加齢変化に伴う分子プロファイルの変化について明らかにしていくことでさらなる情報の充実を図ります。

3-3. 今後の展望

今後はゲノムの構造多型解析を進め、SNV以外のバリアントに関するリファレンスパネルの構築、ジャポニカアレイ®のバージョンアップ、そして解析データの更なる分譲を目指します。日本人基準ゲノム配列については未決定領域を減らし、アノテーションを増やしていきます。また、メタボロームとゲノム解析情報との関連解析を進め、MGWASを含む様々な統合オミックス解析の分野で先導的な役割を果たします。これらの情報に加え表現型まで含めたオミックス情報を横断的に解析可能なよう日本人多層オミックス参照パネルを拡充し、全国の研究者に向けて公開します。さらにこれらの情報を、国内の疾患ゲノムコホートが保有する希少疾患もしくは頻度の少ないサンプルの遺伝子多型、オミックス情報の対照群として比較し分析を進めます。
ゲノム・メタボローム等の情報から個人に最適な治療・予防法を確立し、早期の社会実装を目指します。