河北新報 リレーエッセー 医進伝心 第42回

HIV/エイズ、激動の30年/途上国でも死亡率激減

2015年11月18日 掲載
 土屋菜歩

皆さんはHIV/エイズを知っていますか? HIVはヒト免疫不全ウイルスのことです。HIVがヒトの体を病原体から守るのに重要な細胞に感染し、増殖して免疫力が落ちると、普段は感染しない病原体にも感染しやすくなり、さまざまな病気を発症します。この状態がエイズです。
アメリカで最初のエイズ症例が報告されたのは1981年。1990年代にサハラ砂漠以南のアフリカと東南アジアを中心に感染が爆発的に広がりました。当初、途上国でのHIV治療は高額で非現実的であるとされていました。差別や偏見もありました。しかし、国をつくり支えていく若者が次々と病に倒れる危機的状況を目の当たりにし、世界中が動きだしたのです。
国連エイズ合同計画の呼び掛けで、世界各国で治療普及や予防啓発の取り組みが行われました。2000年代前半にはタイやブラジル、インドなどで安価な治療薬が生産され、治療費を無料化する国も出てきました。途上国でも治療が普及しエイズ関連死亡率は激減しました。
長期生存を可能にするには、早期診断・早期治療開始が重要であることが証明されています。治療効果が高く副作用の少ない薬剤の開発により、近年は「予防としての治療」、「曝(ばく)露前予防」(HIVに感染するリスクの高い人たちが予防的に抗HIV薬を使用すること)という考え方も生まれ、その効果が報告されています。
12月1日は世界エイズデー。エイズのない時代、HIV感染者の方々がよりよく生きられる時代を目指して、私たちの挑戦は続きます。
 
土屋菜歩プロフィール
リレーエッセー医進伝心 一覧