河北新報 リレーエッセー 医進伝心 第68回

時空超えるゲノム解析/津波の歴史と日本人の足跡

2017年1月18日 掲載
八重樫伸生

島根・出雲大社の境内で「奇跡の一本松 二世松」という標識と共に、私の背丈ほどの松を見掛けました。陸前高田の「奇跡の一本松」の枝から育てたもので、漫画家やなせたかし氏(故人)が「ケナゲ」と命名しています。松江の小泉八雲記念館では、八雲が津波から村人を救う物語を1896年に英語で発表したことで、Tsunamiが世界的に使われるようになったことが展示されています。後に「稲わらの火」という物語に日本語訳され国内でも読まれていますが、その小説で使われた描写は同年に起きた明治三陸大津波のものであったそうです。
東日本大震災の400年前の1611年にも三陸で大地震と大津波が起きています(慶長三陸津波)。伊達政宗による慶長遣欧使節団の派遣はその復興プロジェクトであったと知り、政宗の壮大な構想力と実行力に今更ながら圧倒されます。支倉常長らを派遣した使節団は偉大な足跡を世界各地に残して帰国しましたが、何人かはスペインに残留したと言われ、その子孫がハポン(スペイン語で日本人)姓として残ったのではないかという報道も最近よく見かけます。
東日本大震災を機に始まった東北メディカル・メガバンク計画では、日本人の遺伝情報を解析し日本人とは何かという根源的な課題にゲノム情報から答えようとしています。さらに事業の成果を基に遺伝子変異を調べる簡便で安価なゲノム解析ツールが開発され、研究の現場で使われています。この解析ツールをハポン姓の方々に使ったら日本人とのつながりが何か分かるのではないか、夢は時空を超えて駆け巡ります。

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