河北新報 リレーエッセー 医進伝心 第8回

口内環境解明による地域医療イノベーション/口から始める全身ケア

2014年6月18日 掲載
坪井明人

健康な口の働きが、単に栄養を取るために食べ物をかみ砕くだけではなく、料理や会話を楽しんだり、周りの人とコミュニケーションを図ったり、豊かで快適な人生を送るために必要不可欠なものであることを、私たちは知っています。そして、日々、それを維持するための努力もしています。
例えば、日本人の99%は、1日に1回以上歯磨きをしているという調査があります。それにもかかわらず、歯科医院に通院したことがない人は4%にも届きません。
虫歯や歯周病などの歯や口の病気の多くは、口の中で常に生息している細菌=口腔(こうくう)内常在菌=が原因となっています。
実は、口腔内常在菌は、健康なヒトの口腔内にも700種以上が生息していて、唾液1cc中には1億個以上が含まれています。しかし、個々の常在菌は病気を引き起こす力が弱いために、普段はヒトとの共生が可能です。
口腔内に限らず、自然界の穏やかな環境下では、多様な生物種が生息していることが知られています。ところが、環境が厳しくなるにつれて、その環境に適応できる生物種は減少していきます。つまり、生息する生物種のバランスが崩れてしまい、生体内では、病気を引き起こす微生物が増えることにつながります。
歯磨きなどの口腔ケアは、単に歯の汚れを落として口腔内の細菌数を減少させるだけでなく、口腔の環境を整えますので、細菌叢(そう)=細菌の集団=のバランスが良くなり、口の健康を保つことができます。
近年、歯周病などの口腔の感染症が糖尿病や肥満、動脈硬化、心臓血管障害、腎臓病、アレルギーなどさまざまな全身疾患の誘因となることが分かってきました。口腔内の微生物をうまくコントロールすることは、全身の健康増進にも役立ちます。

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