量子暗号通信によるゲノムシークエンスデータのセキュアな伝送における社会実装課題の検討(2018~2022年度)

研究開発事業名

課題名:量子暗号通信によるゲノムシークエンスデータのセキュアな伝送における社会実装課題の検討(2018年度~2022年度)

※株式会社東芝との共同研究

背景

ヒトゲノム情報はヒトの遺伝情報の総体であり、個別化医療や予防に役立つ情報と考えられており、今後さまざまな場面でゲノム情報の利用が想定されています。現在、次世代シークエンサー技術により一千億塩基以上の情報を1人のDNA試料から数日で取得することが一般的に行われています。ゲノム情報は一定の条件を満たすと個人情報と見做される個人識別符号として法的に位置づけられており、安全にデータをやりとりすることが求められます。そのための1つの技術として、株式会社 東芝(以下、東芝)では、高速・安全に大規模な情報を転送することができる量子暗号通信技術の研究・開発を行っています。

本研究では、先行する研究で2015年度に南吉成の東芝ライフサイエンス解析センターと東北大学星陵キャンパスの東北メディカル・メガバンク機構に敷設した専用光ファイバ、そして東北メディカル・メガバンク機構と東北大学病院間に本研究により敷設した専用光ファイバを用いて、日本人のゲノム情報基盤構築の最先端拠点である東北メディカル・メガバンク機構及び東北大学病院と共同で量子暗号全ゲノム情報通信の社会実装に向け、以下の2つ研究課題を設定し、2018年度から2022年度まで共同研究を行いました。

1) 通信機器の改良および、通信のプロトコル改良によるゲノムシークエンス情報のリアルタイム伝送にむけた実証実験

2) 倫理申請を必要とするゲノムデータの伝送実現にむけた運用課題の検討と実装

結果、次に示す5つの項目での実証に至りました。

本共同研究は、内閣府総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「光・量子を活用した Society 5.0 実現化技術」(管理法人:量子科学技術研究開発機構)の研究開発実施を目的として行われました。

主な研究内容と成果

量子暗号通信を利用したゲノム解析データリアルタイム伝送

仙台市南吉成の東芝ライフサイエンス解析センター、東北メディカル・メガバンク棟の間に敷設された専用光回線を用いて、社会実装に向けた量子暗号通信の技術検証を実施し、倫理申請を要するコホート検体のゲノム情報及び高速量子暗号通信装置を用いてリアルタイム伝送の実証を行い、共同で成果発表やプレスリリースを行いました。

2018年8月27日
実環境下での鍵配信速度10Mbpsを超える高速量子暗号通信の実証に世界で初めて成功

2020年1月14日
量子暗号通信技術を用いた全ゲノム配列データの伝送を世界で初めて実証【プレスリリース】

 

がんクリニカルシークエンスへの量子暗号適用実証

東北メディカル・メガバンク機構と東北大学病院間に、本研究において新たな光ファイバを敷設し、両者間で量子暗号通信とTV会議を連携して動作させるシステムを開発・構築し、東北メディカル・メガバンク機構と東北大学病院といった至近距離の二者でゲノムデータの伝送とTV会議の連携の動作を検証、確認しました。試料として、東北大学病院個別化医療センターの疾患バイオバンク検体を対象としました。ゲノム医療分野における量子暗号通信技術を用いたシステムの構築・実証は世界で初めてであり、共同でプレスリリースを行いました。

2020年8月7日
世界で初めて量子暗号通信技術を適用したゲノム医療向けシステムを構築・実証【プレスリリース】

 

量子暗号通信と秘密分散を利用したオンラインリモートバックアップ

国立研究開発法人情報通信研究機構の協力を得て、量子暗号通信技術と秘密分散技術を組み合わせたデータ分散保管技術を開発し、大規模ゲノム解析データを複数拠点に分散して安全にバックアップ保管する実証実験に世界で初めて成功し、共同でプレスリリースを行いました。

2021年8月26日
量子暗号通信技術と秘密分散技術を活用しゲノム解析データの分散保管の実証に成功 ~ゲノム研究・ゲノム医療分野における安全なデータ管理に貢献~【プレスリリース】

 

暗号方式別ファイルサーバによる量子暗号通信の日常利用

情報の機微性に応じた暗号方式別ファイルサーバを設けて、ToMMo~東北大学病院間の情報の受渡し・共有を行いました。また、この暗号方式別ファイルサーバと量子暗号通信を利用したビデオ会議システムとの組み合わせによる、模擬エキスパートパネルを行いました。

 

量子セキュリティ技術と個人認証を連携させた個別化ヘルスケアユースケースの実証

国立研究開発法人情報通信研究機構の協力を得て、量子暗号通信技術および秘密分散技術を活用した量子セキュリティ技術と個人認証技術を連携させて、多数の個人のゲノムデータを複数拠点に分散保管し、医療や健康管理に活用する個別化ヘルスケアシステムを世界で初めて構築・実証し、共同でプレスリリースを行いました。

2022年12月8日
量子セキュリティ技術と個人認証を連携させ、セキュアな個別化ヘルスケアユースケースの実証に成功~多数の個人のゲノムデータを情報理論的に安全に保管・伝送し、個人の許諾に応じて 活用できるシステムを構築~【プレスリリース】

 

この課題からの研究成果一覧

2018年8月27日
実環境下での鍵配信速度10Mbpsを超える高速量子暗号通信の実証に世界で初めて成功

2020年1月14日
量子暗号通信技術を用いた全ゲノム配列データの伝送を世界で初めて実証【プレスリリース】

2020年8月7日
世界で初めて量子暗号通信技術を適用したゲノム医療向けシステムを構築・実証【プレスリリース】

2021年8月26日
量子暗号通信技術と秘密分散技術を活用しゲノム解析データの分散保管の実証に成功 ~ゲノム研究・ゲノム医療分野における安全なデータ管理に貢献~【プレスリリース】

2022年12月8日
量子セキュリティ技術と個人認証を連携させ、セキュアな個別化ヘルスケアユースケースの実証に成功~多数の個人のゲノムデータを情報理論的に安全に保管・伝送し、個人の許諾に応じて 活用できるシステムを構築~【プレスリリース】