河北新報 リレーエッセー 医進伝心 第34回

人類史を裏付ける遺伝子の系譜/大陸移動の道筋を刻む

2015年7月15日 掲載
 檀上稲穂

最近、遺伝子解析やゲノム解析といった言葉を聞く機会が増えたように思います。遺伝子やゲノムは遺伝情報とも言われ、生物の体を作り生命を維持するための設計図です。遺伝情報には、個人の体質などの特徴が書き込まれています。個人差を調べる研究は、体質に合わせた病気の予防法・治療法を開発する未来型医療につながります。
また、「地球の歴史は地層に刻まれ、生物の歴史は染色体(ゲノム)に刻まれる」とは、遺伝学のパイオニアで世界的に有名な木原均博士(故人)の言葉です。人類の歴史はどのように遺伝情報の中に刻み込まれているのでしょうか?
ヒトの祖先は600万年前にアフリカで誕生し、われわれの直接の祖先は約9万年前にアフリカを出発したと考えられています。5万年をかけてユーラシア大陸とオセアニアに到達し、今から約1万年前に南米大陸に到達しました。人類はどのような道筋をたどって世界中に広がったのでしょうか? 記録は無く、飛行機や鉄道もありません。何万年もかけて移動した経路を知ることはできるのでしょうか?
実は、時間の経過とともに遺伝情報は少しずつ変化します。この変化の積み重ねが「ゲノムに刻まれた生物の歴史」です。人種や民族の遺伝情報を比較し、違いが大きければ道が分かれてから長い時間が経過し、小さければ比較的最近分かれたと判定します。この作業を積み重ねて、少しずつ移動の経路を明らかにしていくのです。悠久の歴史の中、大陸移動とともに変遷したゲノムを通じて、人類の祖先に思いをはせてみませんか?
 
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