河北新報 リレーエッセー 医進伝心 第61回

がん細胞に起こる「進化」/DNA解析 治療法探る

2016年9月21日 掲載
齋藤さかえ

今年の夏、ポケモンを捕まえ育てるのに多くの人が夢中になりました。ゲームのポケモンは条件がそろえばあっという間に進化しますが、生物学では、生き物が世代を重ねる中で時間とともに変化していくことを「進化」と言います。なぜ生き物に変化が起こるのか、ご存じでしょうか?
生き物の変化のきっかけとなるのは、親から子へ伝えられる遺伝情報(DNA)に起こる突然変異です。DNAに偶然に起こった変異から、さまざまな性質の違いを持つ個体が生まれ、たまたま生存に有利な性質を持った個体はより多くの子孫を残します。生き物が世代交代を繰り返す間に環境にうまく合った性質を備えていく過程を「適応」と言い、このような働きが、長い時間をかけて生き物を変化させてきました。
最新のがん研究では、私たちの身体に発生するがんにも、進化と同じような仕組みが細胞レベルで働いていると考えています。がん細胞は、正常な細胞のDNAに起こった変異が原因で生まれますが、がん細胞が分裂するごとにDNAにわずかな変異が起こり、さまざまな性質の違いを持つがん細胞が時間とともに現れます。一つの腫瘍の中に、増殖に有利な性質を持つ細胞や薬に対する抵抗性の異なる細胞が生まれ、こうしたがん細胞の多様性が、がんの治療を難しくしていることが分かってきました。最近では、腫瘍からがん細胞を一つずつ取り出して遺伝情報を解析し、腫瘍の中の多様性を調べる研究が進んでおり、時間とともに変化するがんに立ち向かう新しい治療法につながると期待されています。

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