河北新報 リレーエッセー 医進伝心 第58回

体内の血液を調節する造血システム/病気予防へ仕組み解明

2016年8月3日 掲載
 清水律子

私たちの体を旅する血液は、赤血球、白血球、血小板などの特有の役割を持った細胞が、血漿(けっしょう)という川の流れに乗って血管の中を流れているものと捉えることができます。とはいえ、ずっと同じ細胞が流れているのではなく、古い細胞は淘汰され、失った数だけ新しい細胞に置き換わっているので、細胞の数はいつも一定に保たれています。
その一方で、私たちの体には、何か起こったときに必要な機能を持つ細胞が必要な数だけ作られ、速やかに元の状態に戻そうとするシステムも備わっています。例えば、ばい菌が侵入すると、侵入者を排除しようと白血球を増産します。血管が傷ついたら、出血を最小限に抑えるために血小板が動員され、傷口をふさぎます。出血でたくさんの赤血球を失った場合は、組織への酸素運搬が滞りなく行われるように急いで新しい赤血球を作ります。のみならず、環境や生活習慣に適応して細胞を作り調節する仕組みも備わっています。このように、血液はただ血管を流れているのではなく、私たちの体がその隅々まで最も健やかな状態でいられるように精緻に調節されています。
実は、赤血球も白血球も血小板も、元々は同じ造血幹細胞から作られるので、どの細胞を、どんなときに、どのぐらいの数作り出すかを調節する仕組みがあるはずですが、その詳細は分かっていません。この調節する仕組みの破綻が原因となって、さまざまな血液の病気が引き起こされます。ですから、造血システムを明らかにすることが、病気の本質を知り、その予防や治療に大いに貢献すると信じて、私は研究に取り組んでいます。

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