河北新報 リレーエッセー 医進伝心 第48回

代謝物は、一人一人の「からだの声」/血液1滴で早期診断

2016年3月2日 掲載
 三枝大輔

今回は代謝物についてのお話です。皆さんは、代謝物と聞いて何を連想しますか?
「体の中で分解されて尿や糞(ふん)便に出る物質」というイメージを持たれるかもしれませんが、実は、そのような物質は一部に過ぎず、多くの代謝物は、体の中で合成と分解を繰り返し、再利用されています。また、それぞれの量が適切に調整されているため、多過ぎても少な過ぎても体に影響が出てきます。つまり、代謝物の変化を観察することは、日常の体の変化を観察することと同じと言えます。
最近では、血液が1滴あれば、たくさんの代謝物を観察することができます。例えば、血液1滴に数ピコグラム含まれる物質(50メートルのプールに砂糖をひとつまみ溶かしたくらい)を検出することが可能なので、食事や飲み物、栄養剤や薬に含まれる物質はもちろん、体の細胞や腸内細菌が作り出す物質の種類と量も分かります。従って、代謝物の観察は、一人一人の体調を管理することや、病気を知るための「からだの声」を聞くことに有効です。
そこで、医療現場では、発見が遅れると治療が難しくなるがんなどを中心に、それぞれの病気に特徴的に観察される代謝物を調べ、早期に診断する方法や、病気の発症を未然に防ぐ方法が開発されています。
実は、体の中にはまだまだ知られていない代謝物が存在しています。近い将来、生活習慣病やがん、原因不明の希少疾患が血液1滴で診断できる方法を開発すべく、多くの研究者が病気に関わる新たな代謝物の発見を目指して研究を進めています。
 
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