河北新報 リレーエッセー 医進伝心 第19回

「血圧の変動」を解明する最新医学事情/環境と遺伝の関連着目

2014年12月3日 掲載
菊谷昌浩

皆さんはご家庭で血圧を測りますか。日本は世界有数の家庭血圧大国で、4300万台の家庭血圧計が販売されています。ちょうど日本の高血圧人口と同じです。一般の方々が血圧計を買って健康の目安にしています。お医者さんも、患者さんの家庭血圧値を参考にして降圧薬の処方をしています。家庭血圧計の普及は、過剰な降圧治療を減らしつつ、本当に降圧治療が必要な人をしっかり発見します。とても良いことで、日本が世界に誇れることです。
自宅で血圧を測定すると、思いのほかバラツキがあります。数回の測定で異なる血圧値が得られます。「こんなにバラバラな血圧だったら血圧計が変なんじゃないか」と相談してくる患者さんもいます。いいえ、そうではありません。数回測定して全部同じ血圧だったら生物ではありません。変動こそ血圧の本質です。
血圧の変動に意味はあるのでしょうか。東北大の研究では、血圧変動が過剰に大きすぎる人は、脳心血管死亡や認知機能の低下のリスクが高いことが分かってきました。逆にバラツキが少ないことは良いことなのでしょうか。血圧と密接な関係がある心拍数では、秒~分単位の短期変動が小さいと脳心血管死亡リスクが上昇し、日単位の長期変動が大きいとリスクが上昇します。ヒトの体は不思議ですね。
血圧はさまざまな要因に影響を受けます。身体活動、食事内容、精神的緊張、血液中の各種のホルモン、ランダムな変動、遺伝子などさまざまな要因が複雑に絡み合い血圧変動が形成されます。その仕組みを解き明かすことに最新の医学は向かっています。血圧変動への深い理解が、こころとからだの仕組みの解明、ひいては病気の予防・克服につながります。環境と遺伝との関連を究明する最新のゲノム医学が東北大で始まっています。

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