大規模前向きコホート調査

1. 大規模前向きコホート調査

1-1. 概要

当計画では地域住民を対象とした地域住民コホート調査と、妊婦さんを起点としその家族を対象とした三世代コホート調査を実施しています。

1-1-1. 調査のデザイン

地域住民コホート調査では8万人、三世代コホート調査では7万人の参加を目標値として設定しました。これは、多くの国民が罹患する一般的な疾患である高血圧・糖尿病・高脂血症、そして小児期から罹患し遺伝的素因の関与が示唆されているアトピー性皮膚炎・気管支喘息・注意欠陥多動性障害(ADHD)・自閉スペクトラム症等に関連する遺伝・環境要因の解明が可能と考えられる規模です。総計15万人の目標参加人数をもとに、リクルート方法、時期、調査の内容が設定されました。つまり東北メディカル・メガバンク計画のコホートでは、単独で多くの疾患の遺伝要因と環境要因を解明することができるポテンシャルをもっています。もちろん他の患者コホートや前向きコホートとの連携によって、より大きな成果も期待できます。
調査は一度だけではなく、調査票は約1年おき、対面型の詳細調査は数年おきに実施し、更に定期的に公的機関等から情報を取得して参加者の健康状態を前向きに追っています。

・当計画コホート調査のロードマップ

当計画コホート調査のデザイン(論文)

1-2. 調査状況

コホート調査のあゆみ
コホート調査で収集している試料・情報

1-2-1. 地域住民コホート調査

地域住民コホート調査は、東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)と岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構(IMM)によって実施されています。宮城県と岩手県に住民票のある20歳以上の方を対象とし、2013年5月から2016年3月までリクルートを行い、目標としていた8万人以上の参加を得ました。ToMMoでは、多くの県内自治体の特定健康診査会場と県内7か所に設置した地域支援センターでリクルートを行い、インフォームド・コンセントを取得し、生活習慣などについての調査票データと、採血・採尿などの試料および検査データを収集しました。地域支援センターではさらに詳細な調査を実施し、多種多様な検査データを収集しています。

1-2-2. 三世代コホート調査

三世代コホート調査は、出生コホートと家系情報付き三世代コホートの両研究デザインを融合させた世界初のゲノムコホートです。宮城県と岩手県の一部地域に住民票のある妊婦さんと生まれたお子さんを中心にその家族を2013年7月から2017年3月までリクルートを行い、合計7万人以上の参加を得ました。まず産科医療機関で妊婦さんにお声がけし、その後妊婦さんの家族からインフォームド・コンセントを取得しリクルートしていきました。取得する情報としては、地域住民コホート調査と同様、生活習慣などについての調査票データと、採血・採尿などの試料および検査データです。妊婦さんについては、妊娠中2回、産後1回の計3回の試料・情報を取得し、臍帯血、母乳等も採取しています。地域支援センターではさらに詳細な調査を実施し、多様な検査データを収集しました。
また、三世代コホート調査の一環として、2012年11月から2016年3月まで、宮城県内で調査実施を希望された全自治体(28市町村)に対し、地域子ども長期健康調査を実施しました。

1-2-3. 脳と心の健康調査

治療・予防法開発に対する社会的要請の強い認知症などの疾患についての成果創出に向け、脳MRI検査、認知心理検査を行い、メンタルケアと脳画像データベースの構築を行っています。地域住民コホート調査、三世代コホート調査の参加者で地域支援センター型調査を受けられた方を対象に参加募集し、ベースラインとして約1.2万人の撮像を行いました。2019年10月より縦断的調査として2回目の調査を実施し、脳形態、認知機能の加齢による経年変化等を研究しています。

1-2-4. 追跡調査

両コホート調査では様々な方法で追跡調査を実施しています。大きく分けて郵送による調査票(約1年おき)/公的機関からの情報取得/地域支援センターでの対面型による詳細調査((数年おき)の3種類を実施しています。詳細調査では、主に企業からの申し入れによるアドオンコホート(すでに実施しているコホート調査に追加して実施する調査))が複数実施されており、調査項目の幅が広げられています。なお、アドオンコホート調査による項目も一定期間を経た後、複合バイオバンクに追加され、参加者に許諾を得た上で分譲対象としており、データ分譲項目の拡大に貢献しています。
追跡調査の中で疾患発症についての調査も実施しています。参加者本人からの調査票や、公的機関から得られた疾病発症情報のうち、大人では脳卒中・心筋梗塞・狭心症について、三世代コホート調査の子どもでは川崎病について、県内医療機関を対象に問い合わせを実施し多くの施設から回答が得られています。このほか医療費情報、特定健診の健診データの収集を行っています。さらに各種疾患発生情報や、介護保険情報の取得についても進めています。
三世代コホート調査の追跡調査においては、乳幼児健診情報、学校保健情報、母子健康手帳情報、小児慢性特定疾病情報、難病登録に関する情報の取得プラットフォームを完成させ、コホート調査参加者すべての母子健康状態を悉皆的に把握する手法を開発し、順調に情報収集を行っています。

1-2-5. E-Epidemiology

両コホート調査では郵送法調査票調査に加え、電子的に調査票に回答するE-Epidemiology法を導入しており、2割程度の回答はE-Epidemiologyから取得しています。E-Epidemiologyの導入により、記入や調査データの整理にかかる労力・経費が節減されることはもちろん、誤字脱字や回答内容の取り違えを少なくすることができるため、データの質の向上にも貢献しています。

1-3. これまでの成果
1-3-1. 地域住民コホート調査

地域住民コホート調査では、被災地における住民の健康状況及びその推移について報告を行ってきました。ベースライン調査では、メンタルヘルス関連、メタボリックシンドローム等各種検査の状況が被災地(沿岸・内陸または家屋の被害程度で定義)で不良であることを報告しています。詳細二次調査初年度の調査結果による縦断的な解析も実施しており、家屋被害の大きい集団で骨密度の低下が統計学的に有意に高いという報告をしています。一方、頸動脈血管の膜の厚みの変化量やHbA1cの変化量については差がなく、メンタルヘルス等についてもベースライン調査での不良な状況が継続しているが、家屋被害の大小による差は広がっていないという状況についても報告しています。
これまでの調査でわかってきたこと
また、特定健診共同参加型参加者全員(6万7千人)のベースライン調査の生体試料と情報、ゲノム解析情報を分譲しています。

1-3-2. 三世代コホート調査

三世代コホート調査では、被災地における子ども及び成人の健康状態に関する知見を得て報告してきました。解析結果からは、妊婦やそのパートナーの喫煙状況や肥満の割合などが高い傾向がみられ、妊婦及び胎児の健康のために、生活習慣面で改善可能な余地が大きいことがわかりました。また、妊娠前からの葉酸サプリメントの摂取割合など、住民への啓発につながるような研究結果も得られています。地域子ども長期健康調査では、津波や住居環境の変化を経験した子どもで、アトピー性皮膚炎の症状、および、こころの所見のオッズ比が高値であることを見出しました。
これまでの調査でわかってきたこと
また、参加者6万8千人分の(生体試料と)情報を分譲しています。

1-3-3. 脳と心の健康調査

震災後のうつ病や精神疾患、認知機能低下等の調査のため脳MRI検査および認知心理検査を行い、総計12,000人分のデータを収集しています。
現在、約4.3千人分の認知・心理検査の情報と脳画像の分譲を行っています。

1-4. 今後の展望

これまでと同様、調査票による追跡調査と公的機関からの情報取得、そして対面型詳細調査を継続し、被災地における健康指標の推移を評価するとともに、調査結果をもとに、諸外国の先進コホートに比肩するゲノム・オミックスコホートを形成し、成果創出に貢献します。
三世代コホート調査については、既参加者の家族の追加リクルートを計画しており、家系情報の更なる充実を目指します。
高齢化が進む日本において認知症対策は最重要課題のひとつです。脳と心の健康調査で得られた検査結果をもとに、早期の軽度認知障害のマーカーの発見、認知機能の低下とその進行の解明に寄与します。
そして、これまで構築してきた調査の仕組みを活かし、アドオンコホートを充実させ調査で得られたすべての情報は最終的にシェアリングを行い、国内の研究者と共有します。