遺伝子多型と薬の代謝の関係についてのデータベースを初公開

薬の効き目と密接に関わっているのが肝臓の代謝機能です。薬は主に肝臓で分解(代謝)されますが、この代謝の速さは個人個人で違いがあり、薬の効果や副作用の出やすさに関係しています。

こうした個人差には、遺伝的な違い(遺伝子多型)が関係していることが分かっています。これまで、薬を分解する酵素(薬物代謝酵素)の活性に関与する遺伝子多型が数多く報告されています。特に、肝臓で薬を代謝する機能をもつ重要な酵素がシトクロムP450(CYP)です。ヒトでは約50種類ほどのCYPがあることがわかっていますが、薬の代謝に関係するCYPは、大きく4つのファミリー(CYP1、CYP2、CYP3、CYP4)に分類されます。さらに、CYP1A2やCYP3A4などとサブファミリーに番号とアルファベットを使って名前が付けられており、それらをCYP分子種といいます。

ToMMoでは、日本人全ゲノムリファレンスパネルを活用し、2018年から薬物代謝酵素CPY2B6、CPY3A4、CPY2C9、CYP1A2などの分子種の遺伝子多型について、酵素機能に与える影響とメカニズムを解明しています。
今回、CYP分子種を含む14種類の薬物代謝酵素について、ToMMoや海外で見つかった382の遺伝子多型それぞれについて組み換えタンパク質を作成して、その代謝能力の違いなどについての情報をjMorpで公開しました。

jMorp:薬剤感受性情報

大規模な日本人集団の全ゲノム解析を活用することで、これまで見落とされていたCYP分子種の遺伝子多型が多数同定されました。これらの遺伝子多型には日本人特有の体内薬物動態変動を予測する遺伝子マーカーが存在する可能性があります。ToMMoを中心とした一連の研究では、日本人の全ゲノム解析で新たに同定されたCYP分子種遺伝子多型に由来するバリアントタンパク質について、それらが薬物代謝に与える影響を明らかにするために、遺伝子組換え酵素タンパク質を作成して、網羅的に遺伝子多型の機能解析を行っています。その結果、CYP分子種遺伝子多型の一部は、特定の医薬品に対する代謝活性の消失や低下、または上昇させていることを明らかにしました。

ToMMoの全ゲノム解析情報を活用したこれらの研究が、従来よりも安全かつ効果的な医薬品の適正使用に繋がるとともに、患者個々に最適な医薬品の選別や投与量を決定するためのコンパニオン診断薬の開発に貢献することで個別化医療の実現を導くことが期待されます。

(2021年10月5日)

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