河北新報 リレーエッセー 医進伝心 第25回

脳研究から見たストレス・コントロール/「不安」理解し症状抑制

2015年3月4日 掲載
 関口敦

ストレスを感じる脳の部位は、大脳辺縁系と呼ばれ、「捕食(食べられること)から逃れるため」に進化してきた器官と考えられています。ヒトはストレスにさらされると、大脳辺縁系が活動し、ホルモンや自律神経系を介して、食べられることから逃れるべく「闘争か逃走」をするためのさまざまな身体反応を引き起こします。筋肉を緊張させ、心拍や呼吸を速め、胃酸分泌や腸の動きにも影響します。
現代社会において、ヒトは食べられることから逃れる必要はなくなりました。対処すべきストレスは、学業や仕事、対人関係、健康への不安など「心理社会的ストレス」へと変化しています。心理社会的ストレスに対処するために、「闘争か逃走」は効果的ではありません。正常な反応であった「闘争か逃走」のための身体反応は、頭痛や肩こり、動悸(どうき)や過換気、下痢や腹痛など、病的な症状として自覚されます。本来は正常な反応である、これらの症状は、病院の検査では異常が見つからず、心因性の症状として心療内科などを紹介されます。
脳研究の知見から、これら症状をコントロールするヒントが見えてきます。脳研究では、「不安」がこれら身体反応を促進させることが示されており、症状に対して健康不安を抱くことが、さらに症状を悪化させるという悪循環を生じさせます。一方で、これらの症状は正常な反応であると「理解」することが、これら反応自体を抑制させることも示されています。症状の背景を正しく「理解」することが、健康不安の悪循環から抜け出し、症状改善の「きっかけ」になり得るのです。

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