河北新報 リレーエッセー 医進伝心 第13回

世代をまたぐゲノム解析/病気の要因、解明の鍵に

2014年9月3日 掲載
目時弘仁

高血圧や糖尿病などの生活習慣病は、遺伝的な要因と環境的な要因の双方から影響を受け病気が生じます。私たちヒトのゲノムには30億もの塩基対がありますが、高血圧や糖尿病の発症に関連する場所がそれぞれ何十カ所も報告されてきました。
30億もの塩基対は、23対からなる染色体に乗って次世代に伝わります。両親からは対のうち1本ずつを受け継いでいます。その両親もまた、それぞれの両親から1本ずつ受け継ぎ、私たちにつながっています。
単純に考えると、祖父母からはどちらか1人分しか受け継げないはずですが、そうではありません。染色体が次世代に受け継がれる前に減数分裂が行われます。この時、23対の染色体が独立して分かれ、1本ずつの計23本となります。この分かれ方は、2の23乗、約800万通りになります。両親それぞれに生じるので、70兆もの組み合わせになります。さらに、父親由来と母親由来の染色体には組み換えが起きるため、無限に近い組み合わせになります。兄弟が似ているようで皆異なるのも、このような理由によります。
もっとも、この配列が全く一緒だったら、同じ人生を歩み、同じ病気になるのでしょうか? 一卵性の双子の場合、配列がほぼ一緒です。背格好も似て、一見区別はつきません。しかし、私たちは2人を全く別の人格として認識できます。高血圧や糖尿病も70~80%しか一致しません。つまり、遺伝的な要因だけではなく、環境の違いも影響しています。
受け継いだゲノムには無限に近い組み合わせがあり、組み合わせが限りなく同じ場合でも、同じ病気になるとは限りません。こうしたことから、現在のゲノム医学では「代をさかのぼってゲノム解析することにより、病気や体質に関連する遺伝的要因や環境的要因を特定しやすくする」という方法も試みられています。

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