河北新報 リレーエッセー 医進伝心 第63回

情報漏えいを防ぐ仕組みとゲノム研究/秘密分散用い比較解析

2016年10月19日 掲載
三澤計治

今、世界の研究機関で、ゲノム情報や生活習慣などの情報を解析し、病気の原因を探る研究が行われています。一例として、「ゲノムワイド関連解析」という手法が挙げられます。健康な方々と、ある病気の患者さんたちとの間で、ゲノム配列を比較し、病気に関連している遺伝子を探る手法です。
多くの場合、ある研究機関が健康な方々の情報を持つ一方で、別の研究機関が患者さんたちの情報を持っています。両方の情報を使い解析するには、情報漏えいを防ぎながら、お互いの情報を参照し合う仕組みが必須です。そこで活用されるのが「秘密分散技術」です。
この技術では、情報は秘匿化された後、「秘密計算サーバー」と呼ばれる複数のコンピューターに分散されます。分散されることによって、それぞれが持つ情報も、通信される情報も、元の情報の断片に過ぎないものになります。一つの情報の断片からは元の情報は復元できませんので、情報漏えいの危険性が下がります。秘密計算サーバー同士は、秘密計算という技術により、秘匿化されたデータを送受信しながら、データ解析を行うことができます。
私たちの研究チームは民間の会社と共同で、データ解析で広く使われている統計学的検定でも、秘密計算を可能とする技術を開発しました。この新技術を活用すると、健康な方々や患者さんたちのゲノム情報を互いに送受信することなく、複数の研究機関が協力して解析を行うことができます。これにより、情報漏えいの危険性が下がるため、医学研究のさらなる発展へ貢献することを希望しています。

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