河北新報 リレーエッセー 医進伝心 第43回

次世代シークエンサーで人類の進化解明/アジア人適合の創薬も

2015年12月2日 掲載
 佐藤行人

次世代シークエンサーと呼ばれるDNA分析機が登場して10年、個人の遺伝情報の解読が急速に進みました。解読された遺伝情報からは、遺伝病やがんなどに関わる変異も発見されます。そのため遺伝情報の解読は、医学研究や医療にとって重要な課題です。
もう一つ、遺伝解析が切り開く重要な分野があります。それは生物進化に関する理解です。進化とは、学問的には進歩・改良を意味するのではなく、ある生物が地球上に登場してから現在に至るまでに、どのような変化を経てきたかを指します。人類の進化で言うと、チンパンジーとの共通祖先から分岐した後、尾が尾てい骨へと退化し、脳のサイズや体毛などに変化がありました。遺伝情報にも、同じように人類独自の変異が存在します。それらは、チンパンジーなどとヒトの遺伝情報を比較することで解明され、どのような遺伝子がヒトを人たらしめるかについて理解を深めてくれます。
遺伝情報を進化の観点から理解することは、医学的にも大きな意義があります。ヒト遺伝情報の研究は、国際プロジェクトによって西洋人を対象とした研究からスタートしました。しかし西洋人とアジア人は約4万年前に分岐したと推定されており、その間にアジア人独自の遺伝的変異も蓄積しています。その中にはアジア人にしかない病原変異も含まれるはずですが、全容は未解明です。そこで、日本人やアジア人の遺伝情報についても解読を進め、アジア人独自の病原変異を明らかにすることで、私たちにより適した医療や創薬を発展させることが望まれます。
 
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